第24話 飛び級合格
「いやー、これでコソコソしなくてよくなりますね」
ふたたび街のメインストリートを歩く一行。その中で将斗がしみじみとつぶやいた。
浮かぶ表情はどこか嬉しげだ。
これまではサブカル知識のある自身が都度補佐に回っていたので、すこしは身体を動かせて気分転換できたのだろう。
「どうかな。早晩大陸中にお尋ね者として手配される身だぞ」
スコットが皮肉げな言葉を出した。
気分に水を差すのを承知でからかいにきていた。どうせこの町とはもうすぐおさらばなのだ。
「わかってはいますが……。それは言わない約束ですよ、ハンセン少佐。せめて今だけはいい気分に浸らせてください……」
「はん。あっさり勝ちにいったくせによく言うもんだぜ、マサト」
エルンストが乗っかるように声を上げた。
一番手を決められなかったことと、将斗に身体能力の差を見せつけられたことで、すこしだけ不服そうに見えなくもない。
掴みどころのない人だ。将斗はそう思う。
「いやいや。俺にマイルショットはできませんよ、クリューガー大尉殿」
「過度の謙遜は嫌味に聞こえるぜ、サムライ」
かつての
相変わらず周囲からは好奇の視線が向けられていたが、それらはすでに気にもならなくなっていた。
将斗に続いてリゲルに挑んだロバートとスコット、それにエルンストとジェームズだったが、それぞれの持ち味を活かして見事その実力を認めさせることに成功。
晴れて全員が討伐冒険者の試験に合格していた。
「しかし、板っ切れ一枚手に入れただけでこんなにも達成感があるなんてな。そりゃ地球でグリーンカードを欲しがる人間も後を絶たないわけだよ」
手に入れた冒険者カードをロバートが指で弾くと、雑踏の中に澄んだ金属音がそっと鳴り響いた。
これでいっぱしの冒険者として見なされるわけで、初心者に比べれば身元もよりたしかなものとなる。
“街の便利屋”とさほど変わらないFランクと、魔物や盗賊の討伐を行うE以上とでは、やはり世間から向けられる目にも明確な差があるらしい。
「それでいて新品のFランクカードを首から下げてると狙われるってんだから世も末ですね。訓練所なんてものが存在するわけですよ」
ジェームズは苦い笑みを浮かべた。
ギルドが保証する身分証明書になるため、悪用されることもあるらしく絶対に紛失しないよう念押しされていた。
もっとも、初期の分と討伐冒険者分として合算された登録料を取られているため粗末にする気など毛頭なかったが。
『えっと、これに向かって話せばよいのですか? ……あ、失礼しました。皆さん、まさか最初から飛び級でDランクになられるとは。いえ、これも驚き過ぎかもしれませんが……』
おずおずといった調子のクリスティーナの声が聞こえてきた。
ミリアに教わってマイクに話しかけているのだ。慣れない感じが少し可愛らしく感じる。
「早く依頼を受けて借金を返さないとどうにも落ち着かないからな」
『べつに構いませんのに……』
宿に迷惑料として全財産を置いてきたので、登録料その他はクリスティーナの所持金から借りていた。
出した本人は「護衛料の内だから返す必要はない」と言ったがそれは謹んで辞退している。
「細かいことはいいのさ。これで身分もできた。『住所不定、無職』なんて言われることもない」
ロバートは満足気な声で続けた。
もちろん、依然として先を急ぐ身なので立場は変わらないのだが、そこには誰も触れない。
青銅らしき金属で作られたプレートの表面には、見たこともない文字で刻印が施されていた。
しかし、どういうわけか五人には「名前、ヴェストファーレン支部所属、Dランク冒険者」と読める。
どうも翻訳機能で強制的に感覚がこの世界仕様に変えられているらしい。
なんでランクがアルファベットに読めるんだよ……とツッコミを入れたい部分は多々あったが、しかしそれでべつに不都合があるわけでもない。
おそらく、五感にフィルターでもかけられているのだろう。五人は理解の及ばないところは強引に納得しておくことにした。
あまり深く考えると、それこそエイリアンに
「繰り返しになるが、ここに長居するつもりもない」
ロバートがそう言うと皆が頷く。
「依頼を受けるにしてもさっさとお姫様を届けてからですね」
「今からじゃ無理かぁ」
ジェームズの言葉にエルンストが残念そうに応じる。
どうせなら早いところ後顧の憂いをなくして冒険者として戦いたいのだろう。
新たなトラブルに巻き込まれる可能性など彼は考えていなさそうだった。
あるいは起きてから心配すればいいと考えているのかもしれない。
実に彼らしいなとジェームズは笑う。
「いいじゃないか。ちょっと討伐をこなして、ギルド管理の訓練用ダンジョンだかを攻略すれば国を越えた活動の許可も降りるんだ。もうしばらく我慢しろ」
じっとしていられない仲間にロバートが苦笑する。
「そりゃまぁ長々と下積みをしないで済むのは手っ取り早くて助かりますけどねぇ」
「よし、宿に戻って装備を決めておこう。出身国はバラバラだが、武器は弾薬も含めて共有したい。チームで弾や部品を融通し合えないのはお粗末過ぎる」
面倒な手続きから解放されたスコットは、やっと出番がきたかと口を開いた。
高級将校のはずなのにどうも脳筋の香りがするぞ……。
付き合いが浅い将斗は、正直に言ってこのDEVGRU少佐についての人物像を量りかねていた。
「うーん、“ダンジョンにカラシニコフで挑むのは間違っているのか”?」
意味もなくそんな言葉が将斗の口から出た。サブカル汚染された悪い癖だった。
「ダメだな、おおいに間違っている」
「銃の扱いも知らないズブの素人に銃を持たせるならまだしも、俺たちが敢えてAKを使う必要はない。潜入任務でもないんだ」
しょうもない軽口を挟んだ将斗にロバートとスコットが真面目に返してくる。
「いや、ボケたんですがね?」
『マサトさん、それは他のみなさんにはちょっとわからないと思います』
インカムから流れてくるのはミリアの呆れ声。
「あのなぁ、マサト。お前とミリア嬢くらいしかわからないネタはあまり入れてくれるな。反応しにくい。……ふたりともそれで異論はないか?」
ジョークであることを理解したロバートはしょうがないなとばかりに苦笑を浮かべ、残る二人に向けて問いかける。
話を振られたジェームズとエルンストは鷹揚に頷く。
彼らは彼らで風変わりな日本人の言動を楽しんでいるようだった。
「問題ありません。偏執的にL85にこだわる趣味はありませんから。一応、西側の銃ならある程度は使い方も知っています」
「ライフルは引き続き慣れたヤツをお願いしますよ。
訓練で各国のライフルをひと通り使った経験のあるジェームズは正直に答え、エルンストは譲れない部分を述べる。
――こうも真面目に返されると肩身が狭くなるなぁ……。
20式小銃の出番のない将斗はそう思ったが、武器の選定に関しては熟練者に任せておくべきだと判断。これ以上の余計な軽口は叩かないでおく。
「とりあえず、一度宿に戻ろうか。幸いなことに夕暮れまでまだ時間はある。装備を整えてから出ても十分間に合うだろう」
そうして一行は宿屋へと戻る。
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