第14話 始動
「うわぁ。なんだかすごいことになっちゃったぞ」
言葉とは裏腹に、エルンストは愉快そうに身体を左右に揺らしていた。
言うまでもないが、「自分たちが関わったばかりに……」などの気に病んだ様子は一切見受けられない。
「なあ? これってもしかして俺たちのせいか? 精々燻っていた火種が燃料に引火したくらいだろ?」
スコットが心外とばかりに眉を不満の形へ変えた。
とはいえ、客観的に考えれば事態が動くには十分すぎる原因だった。
当人からしたら「偶然を人のせいにされたら堪らない」ではあるのだが。
「言い訳させてもらうなら、あくまで偶然の産物なんですけどねぇ。
仕掛け人のジェームズが困ったように視線を皆へ向けた。
既にこの先の“プラン”は脳内で用意してあるのだろう。そうでなければわざわざこのような手間をかけたりはしまい。
「マッキンガー少佐、速やかに“行動”を起こすことを具申します」
あらためて居住まいを正したジェームズがロバートに視線を送った。決断を促そうとしている。
「行動ねぇ……。しかし、
ロバートが溜息とともに腕を組んだ。
どうすべきか悩むというより、自分が最後の決断を下していいか躊躇しているように見えた。
仮にも自分は少佐程度の階級でしかない。遥か昔の将軍のように自ら事を起こすなど想像もしてこなかった。
「消すって……。まさかクリスティーナ嬢を? 上司ですよ?」
エルンストが驚いて上体を起こして疑問を浮かべる。自分たちが狙われていることとクリスティーナの話が彼の中ではリンクしなかったのだ。
「俺たちの登場で埋伏の毒が動き出した感じだな。ベリザリオの飼い主が別にいるなら、クリスティーナ嬢の本国召還なんて迂遠な真似をしても面倒なだけだ。先ほどああは言っていたが、魔族の疑いがある俺たちと同時に消した方が何かと都合が良いはずだ」
ロバートは、自身の思考を整理するためでもあろうが、諸々を口に出して一度情報を共有しようとする。
「アイツが欲しいのは……それぞれ功績と銃に類するものか」
スコットが同意の声を上げた。
「前者はわかりますが銃を? あの時持っていたものはちゃんと渡していますが……」
将斗が疑問を挟んだ。まさかストレージ機能に気付いたわけではあるまい。
「あれだけ疑り深いんだ。この妙な端末はミリア嬢が出したからまだしも、他に何か隠していると思っているかもしれん。それは知識でもいい」
「まぁ、何もない空間からから現れたようなものですしね……」
「そうだ。魔法なんてある世界だしな。もっとも始末するついでに何かあれば儲けものくらいだろうが」
たとえ実物を持っていなくとも、仕組みなどなんらかの情報は手に入れたいはずだ。
それくらいの知恵は回るはずとロバートは考えていた。
「となると俺らの運命は……」
「簡単だ。今さら協力的になるわけもなし、拉致して吐かせて殺してバラして豚のエサか畑の肥やし」
「オーマイ……。まったく、どっちが野蛮人だよ」
エルンストが疲れたように両手を上げて肩を竦めた。
軍人は政治に振り回される存在だが、世界が変わっても尚、別ベクトルでそれに巻き込まれかかっているからだろう。
「教育の大事さが身に染みてわかるな。なんでも先に決めてかかるようなやつは大抵ロクなモンじゃない。ちゃんと話し合わないとな」
同じような心境になったらしいスコットは面白くもなさそうに巨体を揺らした。
「あー、幼稚園で教わりましたねー」
「そういうことだ。まぁ、他人事ではいられない。そのうち俺たちも枷のないように見える世界で自分を律する事態が求められるだろうよ」
豪快な仕草に似合わぬ繊細さを匂わせる言葉だった。
彼も幾多の戦場を潜り抜けて来た上で、本音を覆い隠す精神の強さに至ったのだ。それが理解できるエルンストもからかう真似はしなかった。
「自分が賢いと思ってる人間は、とかく他者を利用することを考えますからね。責任はなるべく押し付けて、自分に累が及びそうになったら尻尾切りとか。今回は裏切りですけど」
「イギリス人が言うと説得力が違うな。なんだ、SASじゃスパイの訓練までしてるのか?」
空気を変えるようにジェームズがおどけ、スコットもそれを承知で彼の芝居に乗った。
「まさか。MI6に出向していたんですよ……とでも言えばよろしいです?」
「やめてくれ。ジェームズの名前でそれはズルい」
スコットが両手を振ると皆から笑いが漏れた。
最初はわからなかったミリアも、やがて「そういうことですか」と遅れて手を打ち鳴らした。
「好む好まざると、もうこの世界で生きていくしかないんです。持てる知識の出し惜しみは無意味ですよ。必要なら凄腕の諜報員にだってなってみせます」
ジェームズの声には確固たる覚悟の響きがあった。周りも自然と頷く。
「いいね、頼りにさせてもらうよ。――さぁ、今夜は“
鋭さを帯びたロバートの声で“
異世界で初めての“
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