#3 一度付いた染みは落ちない
「一人目はサッカークラブコーチの佐々木だ!奴は指導と称して生徒に暴力を振るっている。暴力に耐えきれず将来を有望視されていた選手が何人も辞めている・・・」
「なるほど。じゃぁチェックするわね。」
私は、このために死者の世界の宝物庫からこっそり拝借して来た天秤を使い、片方に彼の心臓を乗せ、そしてもう一方に身代わりの心臓を乗せた。
「そ、それは一体・・・」
目の前で心臓が秤にかけられる様子を見て尊は驚いた表情を見せた。そりゃそうよね。普通に考えてあり得ない光景だものね。
「この天秤は
私はそう説明してみせたが、尊からの返事は特になかった。その表情から驚いている様子は伝わったけど。
「確かに中々の悪人のようね。」
天秤は篠山の心臓よりも佐々木の心臓の方に大きく傾いている。
心臓とは言っても勿論実物を抜いて来た訳じゃないわ。ラーの天秤の特殊能力で、指定した人間の擬似心臓のような物を作り出しているの。擬似とは言ってもコピーに近いから実物そのものと考えても良いわね。
そしてこれらの心臓には、本人が生まれてきてから今までどうやって生きて来たか、どういう事を思い、考えているのか、その人の思考、人生、病気の情報なんてものまで、全ての情報が詰まっている。私はこの情報から寿命を読み取っている。
「うーん、残念ながら残り寿命は7年ね。」
彼にそう伝えると、彼は悔しそうな表情を浮かべた後少し考え、何かを閃いたかのように次の身代わりの名を挙げた。
「それなら次は南高の佐藤だ!あいつは暴走族の頭をやってるし、何度も俺と揉めてる!暴力沙汰だった数えきれないほどだし、間違いなく悪人だろ!」
「わかったわ。チェックするわね。」
天秤に佐藤の心臓を乗せた。僅かばかり篠山の心臓よりも佐藤の心臓の方に傾いている。
「危ないところだったけど、辛うじて佐藤くんの方が悪人だったみたい。良かったわね。でもこれって、あなたが思っている以上に、あなたも相当な悪人って事よ?」
私はそう言いながら再び心臓から残り寿命を読み取った。
「うん、彼なら寿命10年取れるわ。おめでとう。」
篠山は軽く口の端を上げてニヤリと笑った。
「次は同じクラスの山田だ!あいつは俺が何をしても口を出してくる。俺を目の敵にしてやがる!」
「じゃぁ、調べるわね。」
私は山田の心臓を天秤に乗せた。天秤は篠山の心臓の方に大きく傾いている。
「残念ね。山田くんはあなたより遥かに善人のようよ。」
「そ、そんなはずない!あいつは嫌な奴だ!」
納得出来ない様子だったので、私は心臓から山田くんの情報を読み取った。
「山田くん、あなたの事が心配で口
彼は一瞬驚いた顔をしたけど、「いや、そんなはずは・・・」と言いながらも、記憶を辿ろうとしているようだった。
「もうすぐ10分になりそうね。選べるのも後一人という所だけど、どうする?今のところ合計で17年ね。これでいく?それとも身代わりを追加する?」
彼の年齢に17年足すと35歳ね。
人間の年齢としてもまだまだ若いし、サッカー選手としても頑張ればまだまだ現役を続けられる年齢よね。
後1人足して27年寿命が伸びると、45歳ね。人間としてはまだまだ生きられる若さだけど、サッカー選手としては厳しいわよね。
彼はどうするかしら?それともそれ以上に欲を出して何十年も延命しようとするかしら?
「親父を・・・小さい頃出ていった親父を!」
彼はそう言って幼い頃に離婚した父親を差し出した。うん、身内まで差し出すなんて、この子は中々・・・
「お父さんを選んだ理由を教えて貰っても良いかしら?」
彼は力無い目で過去の記憶を辿るように言った。
「俺が小さい頃に浮気をして出て行った。一緒に住んでる時も酒に酔っては暴力を振るっていたから・・・。」
「なるほど。良くわかったわ。」
私は彼の心臓から情報を読み取っていたのだけど、複数の同級生をいじめたり、妊娠させた相手に無理矢理中絶させたり、殺人こそ犯していないまでも中々ひどい事をやって来たみたい。
彼がスポーツ選手として将来を有望視されていながら真っ当な道から外れているのは、父親の事も多少なり影響しているかもしれないわね。
同情の余地があるとはいえ、今の自分を作っているのはこれまで自分の意思で選んだ選択の積み重ね。
事故を起こして今死に直面している事も、他人を巻き込んだ事も、結局自分の責任よね。例え同じ境遇で育ったって、真っすぐ育つ子は真っすぐ
私は少しやるせない気持ちになった。そして一呼吸おいてから言葉を続けた。
「あなたのお父さんは10年カウントされるわ。これで27年。今18歳のあなたは45歳まで生きる事が出来る訳だけど、以上で良いかしら?」
私は最終確認を行い、彼は力強く首を縦に振った。
「ご契約ありがとうございます。この後病院に担がれると思うけど、あなたは死なないわ。契約通り45歳までは、例え首を切ったとしても決して死なないので安心してちょうだい。それとペナルティの事だけど・・・」
説明の途中で彼は意識を失った。仕方ないのでペナルティについては財布の中にでも入れておいてあげようかしら。
私は死神の手帳の空白ページに書き込み、そのページを破り取って彼の財布に差し込んだ。
「これで彼の処理は良いわね。さて、次は・・・」
彼の車の炎はやがて大きな生き物のようにゆらゆらと
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