第一話 幼なじみ(男)との会話

 夏休みもあと1週間と少しとなった7月のある日、今日は夏休み前のテストがようやく終わった金曜日の放課後、俺こと雨付 集ウツキ シュウは今、あらゆる不幸をその身に受けた後のような表情を浮かべて全力で机の上に突っ伏していた。


「おーい集、一緒帰んね〜か?」


「うん?あぁ、なんだ咲也か、」


 こいつの名前は青山 咲也アオヤマ サクヤ、まぁいわゆる幼なじみで小学校からの付き合いだ。


 「ん?なんだ、そんな辛気臭い顔して〜?もしかして、告白して振られでもしたんかー?w」


「ちげーよ、ちょっと不幸が重なってなー今すごく憂鬱なんだ」


「ふーん、なんかあったのか?」


 俺が余程深刻そうに見えたのか、咲はからかうのをやめて心配そうな声色になって聞いてきた。


「あぁ心配すんなよ?実はな『フェアル』がサービス終了したんだよ」


『フェアル』とはフェアリー・アルケミストの略であり俺がハマっていたゲームの名前だ、フルダイブ型のVRゲームが数年前にできてから色々なゲームが出てきていたがフェアルはMMORPGのジャンルでは珍しい生産職系のゲームなのだが、MMOのくせに基本的なプレイは自分の部屋での生産活動だったり、戦闘システムが簡素というかほぼ作業のようなものになっていたり、そんな感じなので結構マイナーで名前を知っている人は多いがやっている人はあまりいないようなゲームである。


「あ〜お前やたらハマってたもんなー、でもそれだけじゃなさそうな感じだけど?」


 さすが幼なじみよく分かるな、そうなのだ俺がここまで落ち込んでいるのにはもう1つ要因がある。


「じいちゃんが仕事やめたんだよ、、、」


「えっ!そうなのか!?前に会った時はまだお元気そうだったが、」


「1ヶ月前から決まってはいたみたいなんだけどな、、、」


「それはなんというか、落ち込むのもしょうがないか、」


「それでさぁ〜…」


 俺の母方の祖父火影 鉄ヒカゲ テツはいわゆる刀匠と言われる鍛治職人で神社に奉納する刀や競技として使う刀などを打つ鍛治職人だったのだが、現代ではその需要は極端に少なく祖父自体が高齢ということもあり受けた仕事を終えて仕事を引退した。


 俺にとって祖父は憧れのようなものだった、鍛治職人の跡を継ぐとかそういう目標があった訳ではないが子供の頃から近くで祖父の仕事を観ていて、火炉から放たれる熱や火花、刀を打っている時にだけ見せる祖父の真剣な横顔などににただ魅せられていて、漠然とこんな風にかっこいい人になりたいと思っていた。


 フェアルにのめり込んでいたのも祖父の影響で、実際の鍛治とは違うものの自分で自分の納得するまで鉄を打つのに楽しさを感じて、元々あまり趣味らしい趣味がなかった俺はそれこそ告白などの恋愛や部活などの青春のない中学時代を迎えていた。


 その二つを失い(祖父は死んではいないが)過去最大に不貞腐れ項垂れている俺は、心配して愚痴を聞いてくれている幼なじみの目にだんだん火がついてきたのに気付かなかった。


「なるほどな、、、よし!」


「ん?」




「なぁ集、『アナクロ』お前もやらないか?」

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