ハーベル編 その4

010


「ちなみに、ワタシも殺人鬼やでー」

そう言いはった瞬間、少女は物凄い勢いでこちらに詰め寄ってくる。

ハーベルは自分の脚力を活かし、反復横跳びで攻撃をかわす。

「いい脚力してんなー」舐められたような口調を叩く少女を、ハーベルは喝采しながら応答する。

「まぁな。」

「だけど、お前よ。何故、日本語を喋る?」

「・・・面白いからヨ」

少女の返答に、ハーベルは眉毛を震わせる。

日本語を興味本位で、知りたかったハーベルとは違い、この少女は日本語を面白いというたったそれだけの理由で、日本語を喋っているのだ。

そんな少女に、ハーベルは少し怖気づく。

「・・・まじかよこの女、」

ハーベルは、自分自身の愚かさに足が震える。



__日本人が好き。


__だから、日本語も知りたい。


それがハーベルの思いだった。

だけど、この少女は違う。


__格の違いを見せつけられた気分だ。


ハーベルは、格の違うニンゲンが目の前に、存在していることが気に食わなかった。

だから、この女を殺したい。


____この女も殺したい。


ハーベルは自分自身の衝動を抑えきらぬまま、少女に向かっていく。

相手の顔なんて見えてない。

いや、そもそもいなかった。

あの少女は______そこにはいない。そこには、いなかった。見えていたはずなのに。

あれは幻覚だったのか。

ハーベルは、幻覚ではないことを証明するために、自分の目元に手をやり、ナイフが握られてないことに気づく。

___あの少女は、俺のナイフを飛ばした。

ハーベルは自分の記憶をたどりながら、ナイフが落とされた場所に目をやった。



しかし、そこにはナイフではなく、一枚の紙切れが残されていた。

赤文字の日本語で書かれたその言葉には、殺人鬼への警告。そして、詐欺師への忠告。

そのすべての意味が込められているであろう日本語が書き表されていた。



「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」


___ハーベルは体が震え上がると同時に、この場所にあの少女がいたということに気づく。

___じゃあ、一体いつ逃げたというのか。

そんなの簡単だ。ハーベルの頭脳は、日本人と日本語で支配されてしまっている。

だから、ハーベルを翻弄するには、日本を使うのが一番効果的なのだ。


___だから、あの少女は『日本』という言葉を使い、ハーベルを翻弄している間に逃げ出した。

わざわざ、警告文を載せて。


自分自身の衝動を抑えられない人間を騙すのは、簡単だ。

___悪知恵を使えばいい。


011


ハーベルは、たった今起こった現状を頭の中で、処理できずにいた。

「何でこうなるんだ。どういうことなんだ。」


そんな時、ドアの奥から見慣れた声がした。

「大丈夫?、ハーベル」

___詐欺師の声だった。

ハーベルは、詐欺師を招くように、ドアの扉を開ける。 そこには、今日と同じ服装の詐欺師がそこに立っていた。

「詐欺師、一体これはどういうことだよ」

ハーベルは、詐欺師に突っかかる。

「いやいや、助けに来てあげたのに、それはないよーー」

詐欺師は両手を上げながら、ハーベルの機嫌を取る。

「助けに来てあげた?___お前、あの少女が来るのを知っていたわけか?」

「まっ、まぁね」

詐欺師は冷や汗をかきながら、顔をそらす。

「あの人は、僕が復讐したい相手なんだ」

詐欺師は、顔をそらしながら否が応にも答える。

答えないと、殺されるきがするからだ。


「復讐??」

ハーベルは、その単語に反応する。

「詐欺師にも復讐したい相手はいるのか」

「うん、いるよ」

「何で、復讐したいんだ」

「あの少女に、金を騙し取られたんだ」

「だまし・・・取られた?」

___詐欺師が、殺人鬼にか?


「だから、騙してほしいんだ。あの少女から、お金を取り戻したい。」

「それがお前の復讐か。」

詐欺師は、ゆっくりと頷く。

「だから、ハーベル。___あいつを騙そう。」

詐欺師の復讐内容に、心底笑いが出る。

復讐したいなら、殺せばいい。それがハーベルの復讐方法だ。

___さぞ、平和的な解決方法だ。


ハーベルは、そんなことを思ったが協力したい一心は、変わらなかった。

「いいぜ、協力してやる。日本に行くためにな」


012


遂に、その時が来た。

ハーベルと詐欺師は、手を取り合い、少女の屋敷の裏口から侵入する。

ハーベルにとっては、格の違う相手だ。昨日、少女とやり合って分かった。

そんな格の違う相手を、ナイフで刺すのが、正直ハーベルのモットーだ。

___だけど、今は我慢だ。

詐欺師は、ゆっくりと金庫の前まで来る。

詐欺師は、驚異的なスピードで、ダイヤルを回し、一分で開けてみせた。

開けた瞬間、詐欺師は俺を突き飛ばす。

「ハーベル、離れろ!!!!」

詐欺師は、大声で叫ぶと同時に金庫の方から巨大な爆発音が響いた。

ハーベルは、寸前のところで、爆発から遠のいた。

___しかし、バーベルを助けたことで犠牲になってしまった。

___あの詐欺師が。


「いやいや、すごい爆発したなー」

ハーベルは、恐る恐る後ろを見る。

そこには、大量のお金を手にした少女がいた。

「これ、君がもらっていいよ」

「___いいのか?」ハーベルは、驚きを隠せない。「いいよ」少女は、ニッコリと笑う。


ハーベルは、テンションが徐々に上がってきた。

「行けるのか、あの日本に!!!」


しかしハーベルは、次の瞬間、後ろを頭で殴られた。

スーツを身に纏った、背の高い男に。

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グルーシー YOSHITAKA SHUUKI(ぱーか @yoshitakashuuki

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