ハーベル編 その3

007


暗い部屋で何やら3人の男がひそひそ話をしていた。3人ともスーツを身に着けており、ポケットに何やら、ゴールデンバッジのようなものが付いていた。かなり、位の高い職種だと服装でわかる。

その内の、背の高い男が沈黙を破る。

「あんな者共に、任せてよろしいのですか。」

「じゃあ、誰に任せればいいと言うのか。」

その3人の中では、年長者であろう男が、問いかけに答える。

背の高い男の隣にいる、もう一人の男はその年長者の応答に、かなり合意の様で、異議なしといった表情を見せる。

かなり自信満々だ。

「しかし、どうするんですか、もしもの事があったら。」

「アイツラを喰わせればいい。」

「そんな。」

背の高い男は、落胆する。

「アイツラは、容疑者なんだぞ、救いようのないクズの集まりさ。そんな奴は、切って捨てる。

なんの間違いがある?言ってみろ。」

年長者からの応答に、何も言い返せない。

そんな自分が情けない、そう言いたげに、顔を下げる。

__クソ、どうすればいいんだ。

どうにも出来ない。容疑者は、良いように利用される。それが運命なのだ。


008


ハーベルは、自分の家の寝室で今日の出来事を振り替えっていた。

「女のコを騙すって言ったって簡単じゃないよな」

独り言をつぶやきながら、詐欺師の作戦を思い出していた。

今日の詐欺師の言葉が脳内に入ってくる。

「まず、ハーベル。君が囮になって、お父さんに化ける。」

「その次に僕もお父さんになる。」

「そして、そのどちらかが本物のおとうさんだとしんじこませる。」

嫌、本当に意味がわからない。

ハーベルは、肩を落とす。

本当にあいつは、一流の詐欺師だったのか。

そんな思いさえ、張り巡らせていく。


そんな中、家の玄関が勢い良く開く。

「俺、家の玄関は、締めたはずだが!?」

ハーベルは、恐る恐るナイフを持って、玄関の入り口まで近づく。

「______流石にマイル。これにはマイル。」

その声は、ハーベルにとって、聞いたことのない声だった。____小さい少女の声だ。

そこで、ハーベルは少女のはっせられた言葉に違和感をおぼえる。

____オータムの言葉じゃない!!

ハーベルは、急いで玄関まで走り、ナイフを落としかけた。いや、落としてしまった。

口が半開きになってるハーベルに、笑顔を向けたその顔は、詐欺師とつるんで、騙す予定の少女だった。

「なっなんで!?」

ハーベルは、同様しながらも、落としたナイフを拾う。

「____いやいや、マイル。ハーベルちゃん。そんなおどろかんといて。」

その女の子は、ハーベルの動揺を凝視しながら、笑顔を向けてくる。ハーベルより小さく10歳ほどの年齢だと思われる少女は、手にキーピックを持っており、これで開けましたと言わんばかりだ。

__いや、そんなことは重要じゃない。今、重要なのは、この子の口から発せられる言語だ。

「その言語、日本語だよな。」

「そうやけど、」

「じゃあ、あんた、本物の日本人か。」

ハーベルは、女のコの顔をじっくり見る。ネットでしか、日本人を見たことがないハーベルにとっては、本物の日本人を、はじめて見るいい機会なのだ。

この子の口から出る言葉は、「に、ほ、ん、じ、ん、で、す、」の7文字だろう。

ハーベルは、期待を膨らませ、女のコの反応を待っている。

だが、なぜだろう。少し、浮かない表情を浮かべながら、考え事をしている。

念の為にハーベルは、ナイフを構えて、いつでも刺せるコンディションを整えていた。

「いつでも、刺せるぜ、俺は。」

ハーベルは、目を閉じて、深呼吸をする。

____いい結果が聞けますように、、

ハーベルは、今までの苦労を思い出していた。

天野浩二と言う奴に、日本語を教えてもらっていた時期もあった。

だが、アイツは日本語を裏切った。

このハーベル様に、たてついたんだ。

「今でも、蘇るぜ。はじめて、日本語を好きになったときの感覚が。」

ハーベルは、脳内で自分に語りかけていた。

殺人にしか、興味のなかったハーベルが唯一好きになれたもの。____それが、日本語だった。




ハーベルは、一般的な民家で生まれ、すくすく育てられた。オータムの街では、基本、10歳で成人を迎え、家族の元から離れなければいけない。

10歳を迎えたハーベルは、家族にお別れの言葉を述べていた。

「お母さん、お父さん、今までありがとう。僕は、この家から出て、すくすく育ちます。」

ハーベルは泣きながら、家族にお別れの挨拶を言ったあと、周りにいる大人に連れ去られていった。

大人3人で、成人した子供を送る。それが昔からのオータムの風習だった。

「僕は、これからどうなるんですか」

ハーベルは、家族が見えなくなったあと、周りの3人の大人に応答を求める。

大人たちはニッコリと笑い、ハーベルの顔を覗き込んできた。

「学校って知ってる?」

ハーベルは、その名前を聞いたことがなく、キョトンとした顔で、大人たちを見る。

そのハーベルの反応が、可愛かったのか大人たちは、更に言葉を続ける。

「学校っていってね。色んな人が、そこに行って、色んな勉強するの。ハーベルもそこに行くんだよ。」

それでもわからないハーベルに「行ったら分かるよ」と大人たちは顔をあげながらつぶやく。

オータムの街では、学校は成人してから行くことになっている。『親に甘えず、自分自身の力でのし上がって行け』という、オータムの古い伝統の言葉に従った結果らしい。

そんなオータムのことを、心から良く思えず、デモを起こしていた家族も多くいたらしいが、ハーベルの家族は違った。

もういっそ会えなくても、ハーベルにすくすく育ってほしい。そんな思いからなのか、ハーベルを学校に預けることを選んだ。

__素晴らしい家族だったんだと思う。


ハーベルは親と離れてから、やんちゃに育っていった。ハーベルの通う学校では、ハーベルタイガーとも呼ばれるほど、喧嘩も良く行っていたらしい。

「お前、ふざけんなよ!!」

いつものように、喧嘩を吹っかけられるハーベルは、やれやれと言わんばかりに肩の力を抜く。

「ハーベルタイガーの実力、なめんなよ」

ハーベルは、右手でアッパーを突き出し、相手の顎めがけて、ぶん殴る。

「お前は、草食。俺は、肉食。言ってる意味わかるよなぁ!!!!」

「ハッはいいいいいい!!!!!」

相手は、痛みに耐えかねて、一目散に逃げる。

ハーベルは、自分の勝利にガッツポーズをする。

「やりましたね、ハーベルさん」

ハーベルとは、正反対の体格の持ち主が、草むらからひょっこり顔を出してくる。

「いやー、これでもうこりて来ないでしょうねー」

「いや、わかんねぇな」

ハーベルは、一目散に逃げていった先を見つめる。

「今度は、大人数で攻めてくるかもしれねぇ、そんときはお前が頼りだ、…ナサ。」

ナサと呼ばれたその男は、カラフルTシャツにカラフルズボンと言ったやけに派手な格好で、姿を表している。

「もうちょいマシな格好もってこい。」

「ハイッハーベルさん!!」

「あんま、目立つ格好で来られたら困るからな。ナサは、潜入担当なんだからな。」

ナサは、ハーベルを崇拝しているようで、毎回、ハーベルにくっついて行動をしている。

そのおかげで、危険にさらされることもしばしばあるらしいが、ナサに攻撃が当たる前に、ハーベルが退治している。

「そうですね!ナサは、ハーベルの影武者ということですもんね!」

ナサは自分の役職に嬉しそうに、答える。

影武者というのは、相手が今どこにいるかを探るということ。

ハーベルにいち早く、居場所を知らせ、相手が行動する前に、こちら側が先制攻撃を仕掛ける。

持ちつ持たれつの関係ができているという事だ。 


ナサは、影の人間だった。誰にも相手をされない。そんなナサに、手を差し伸べてくれたハーベルは、最高の親友だった。でも、そんなナサにも、気になることがあった。

ある日の真夜中、寮の中でナサはふと、ハーベルにたずねる。

「ハーベルはさ、どうして皆を助けるの」

ハーベルは、自己犠牲の塊だ。多分、地の果て海の果まで追いかけてきてくれる。

だからこそ、聞きたかった。ハーベルの何が、そこまでさせるのかを。

「じゃあ、ナサはさ。人を殴ったことある?」

ハーベルは、予想外の質問をして来る。

「そんなことしたことないよ。

だって、僕は弱虫で、臆病で、いつも逃げている。

だけど、ハーベルは違う。暴力をしてでも、皆を助けることができる。どうして、そんなことできるの?」

ハーベルは、目を細めながらつぶやいた。

「じゃあ、実践しよっか」



ハーベルの言っている意味がわからなかった。

ハーベルに手を掴まれたまま、別の寮の部屋に連れて行かれる。ナサは、自分が置かれている状況が分からず、声を出そうとした。

でも、ハーベルのほうが先だった。

「確かに、ナサにはちょっと知ってもらいたかったんだ。俺が、皆を助ける理由。」

そう言いながら、他の寮の小屋にたどり着く。

今の時間は、真夜中で騒ぎにはなっていない。

それもそうだ。男二人で出歩いてても、感づかれる心配はない。

「俺さ、いや、オレ様か。」

「どうしたの、ハーベル。」

「俺、家族に捨てられたんだ。」

ハーベルのその言葉に驚きを隠せない。

と同時に、疑問点が頭の上で沸く。

「オータムの街では、10歳で、成人で−−−−−」

ハーベルの声が、ナサをさえぎる。

「俺の親、デモに参加しなかったんだ。皆、参加するのに。だから、13歳の頃、なぜかを確かめに家族に会いに行ったんだよ。学校に無断で。」

「13歳の時って、確かハーベルが僕に、学校の窓ガラス割れって命令したんだよね。いじめをあぶり出すために。」

「いじめをあぶり出すためにじゃないよ。あれは、俺が家に帰るため。」

ナサは、目を見開く。嘘だ。

ハーベルは、僕に嘘をついている。自分自身が悪者になることによって、偽善者をあぶり出すんだ。

「ナサはさ、俺のことを、信頼しすぎ。だから、ターゲットにされるんだよ。」

「何いってんだよ、ハーベル!!」

「草食と肉食が、仲良くなれるわけないよね。

上手く、利用させてもらったよ。あの時は。」

ナサは、小屋の中に放り投げられる。

さすが、ハーベルタイガーとも呼ばれた男の実力は、計り知れない。

男一人ぐらい、余裕で投げ飛ばせる。

「痛いよ、ハーベル」

ナサは痛みに耐えかねて、言葉をうまく出せない。

そんなナサに、ハーベルは命令する。

「アイツラを全員一人で、ぶっ飛ばしてこい。」

「そんなことできっこないよ」

「俺の家畜が呼んでんぞー!!!」

ハーベルは、大きな声を出し、強者どもを呼び覚ます。ナサは、身の危険を肌で感じていた。

____こうなったらもう、言うしかない。

「@e5??",!!」

ナサは決死の思いで、母国語を喋る。

「何だ今の声。」

ハーベルは、今の声が誰が発したものか分からず、キョロキョロと視点を泳がせていた。

「@b@k-da@yoo!」

「お前が喋ったのか、ナサ」

「あぁ、そうだよ。ハーベル」

____あんた、この国のものじゃなかったのか。

ハーベルは目を光らせ、ナサを殴りつける。


「いい音するなぁ!!!!まるで最高だ!!!!!!

なぁ、どこの国のもんだ。ナサ」

「・・・・日本だよ。僕は、日本で生まれたんだ。だから、僕を殴ったら、日本に通報する。」

「日本?__日本人ってことか」

「・・・・正確には、日本人じゃない。日本人とオータムのハーフだよ。」

「____ハーフ??」

ハーベルは、初めて聞いた単語にハテナを浮かべる。

「お母さんがオータム人で、お父さんは日本人なんだ。」

「そうか」

ハーベルは少し考えたあと、話を続ける。

「なぁナサ。もう一度、日本語で喋ってくれ」

「____bakaud」

「なんて、喋ったんだ?」

「馬鹿だねっていったんだよ。ハーベル」


____最高だ!!!素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。

こいつを殴った時の音は最高だった。

つまり、純日本人を殴れば、もっといい音が聴ける。

そう思ったハーベルは、日本人はどこにいるかを聞き出そうとした。

___その時だった。




ナサは死んだ。自殺した。自分の頭部を、コンクリートに打ち付けて。

「何で、死んだ。死んだら、日本人が、どこにいるか聞けねぇじゃねぇかよ」

ハーベルは、動かないナサを殴りつける。 

「やっぱいい音がする。頭の作りが素晴らしいんだろうなあ。」

殴る。殴る。もっと殴る。

「本当にいい。本当にいい音がする!!!」


___その時、後ろから、大人の男の声がした。

「君、何をしてる!!」

大人が近寄った時、大人は、唖然と口を開けた。  

ハーベルの手は血で汚れており、なさの顔は、もう溶けていた。大人は、口を荒げる。

「君、君がやったのか」

「俺はやってない。コイツは、自殺した」

「・・・・・・・・・はっ!?」


___その一瞬のさきに、ハーベルは大人に近づき、大人の腹部に強烈な一撃を与える。


この世の動くものによくある液体が、男の体から流れる。

「安心しろ。俺は、二人の大人を殺してる。まぁ、血の繋がった奴らだったけどな」

ハーベルは、男を見下しながら、男の眼球目掛けて、拳を打ち付けた。

「あぁ、やっぱりだめだ。この音じゃ。」

ハーベルは、その死体を放置し、自分の寮に帰る。

もちろん、その次の朝、騒ぎになっていた。

___そして、殺した有力者がハーベルと言うことになった。

ハーベルは、否定した。自分はやってないと何度も何度も。

だけど、誰も信じてくれなかった。

______だったら、殺すだけだ。この包丁で。


皆を皆殺しにした、ハーベルは、その場に立ち尽くしていた。もうこれ程の人間を殺めてしまっては取り返しがつかない。

「ウーッウー」

警察の音が聞こえる。ハーベルは、もうじき捕まるのだろう。だが、まぁいい。脱出するだけさ。 

ハーベルは、空を見上げて、勝ち誇ったかのように微笑む。

___警察が近づいてくる。

___だけど、いいんだ。

ハーベルは、抵抗しなかった。そのまま、手錠をつけらけたハーベルは、警察車に乗っていく。

薄い笑みを浮かべながら。


009


俺は、目を開けて、今いる現状をしっかりと確かめる。

眼の前には一人の少女が立っている。その少女の口から発せられる言語は、まさしく日本語だ。

顔はナサには似ていないし、天野浩二にも似ていない。

これが純日本人というものだろうか。

俺は、ゆっくりとナイフをふところに忍ばせながら、彼女の反応を待っていた。

「日本人じゃ・・・」

その次は、何というのか。

「ない。」

「は?」


「だから、日本人じゃないル」


俺は、その一言ですべてを察した。

俺は、全速力でソイツのふところに入り、腹部に致命傷を入れ____



その瞬間、ハーベルのナイフはくるくると何回展もまわりながら、およそ2m離れた場所に突き刺さる。

____こいつは一体何者だ。

ハーベルは、少女の姿をゆっくりと見つめた。

その少女の手には、ナイフが握られており、顔がかすかに笑う。

「ちなみに、ワタシも殺人鬼やでー」


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