第4話 すべては聖女の下へ収束する


そして、ロベルトは学園に来なくなった。

最初は仮病かと思っていたが、閉鎖病棟へ搬送されたという話を聞いた。

誰かにずっと見られていると騒ぎ、会話も碌にできないらしい。


彼が再起不能になったことを何が何でも隠したいのか、誰も彼のことを教えてくれなかった。

真実は私以外、誰も知らない。


私の姿を見て発狂したという変な噂も流れ始めたが、特に何も変わらない。

元々、友達は少ない方だ。気にしてもしょうがない。


「アイツ、散々怒鳴り散らかしておいて何だったのよ。

学園にも来なくなっちゃうしさ」


「本当におかしくなっちゃったんじゃない?

ずっと嫌がらせされてたみたいだし」


「それなのよ! 結局、ダイアナのフリをしていたのって誰だったのよ!」


「それも不思議な話だよねえ、誰も知らないんだもんね」


ロベルトに嫌がらせをしていた犯人は結局、見つかっていない。

マリアをいじめていたことが理由だと思われているようだが、真実は私以外、誰も知らない。


「ダイアナも気をつけたほうがいいんじゃない? 

一応、巻き込まれているわけだしさ」


「そうね、次は私かもしれないわね」


「ちょっと、そんなことを言わないでよ」


こそこそと取り巻きの女子と話をする。

私にはどうでもよかった。私はようやく自由になれる。

それだけで胸がいっぱいだった。


「ダイアナ!」


マリアが弾けたように立ち上がった。


「話があるんだけど、いいかな?」


「いいわよ、何かしら」


誰にも邪魔をされることなく、二人きりで話ができる。

こうして同じ道を歩くのは、何年ぶりだろうか。


マリアが少しだけ先を歩き、私とロベルトが後を追いかけていた。

夕焼けの帰り道を三人で歩くことはもうできない。


「ロベルトのことなんだけどね」


「私は何も知らないわ」


「それは知ってる。

ほら、ずっと二人で難しい話をしてたでしょ?

私が聖女に選ばれたから、守らないといけないって……」


私は歩みを止めた。そんな明るい話ではない。

ロベルトは自分の利益を求めていただけだ。私は利用されていただけだ。


「何を言ってるのよ、何かのまちがいじゃない?」


だから、私は否定するしかない。

目的が似ていただけで、見ていた世界はまるで違う。

そんなに綺麗なことは考えていないのだ。


「私をいじめていたのも、他の人を近づけさせないようにするためだったんでしょ? 

それを考えたのもロベルトだったんでしょ? 全部知ってるんだよ、私」


「アイツは『愚かであれ』と言っただけよ。

結局、何も考えていなかった」


「だからね、そのままでいてくれたらよかったんだよ。

私はそのままのダイアナが好き。何もしなくてよかったんだよ」


嘘を言っているようには見えない。

あのままいじめ続けていたところで、報復を受けていたに違いない。

いずれにせよ、こうなっていた。謝ったところでもう遅い。


「あなたはいつもそうね……誰よりも平和を願っている」


平和を願う心は本物であることも知っている。

だから、聖女に選ばれたのだろう。


「ねえ、どうしてこうなちゃったんだろう。

私はみんなが笑顔でいてくれたら、それでよかったのに」


昔と変わらない。自分が犠牲になっても構わない。

死んでも同じことを言うのだろう。


「聖女になったら、幸せになれると思っていたんだ。

みんなで楽しく、仲良く過ごせると思ってたのに」


幸せなんて考えるまでもなかった。

誰よりも本気でそう信じていた。


「それであなたは本当に幸せなの?

私にいじめられて、本当によかったと思ってる?」


「変なことを聞くんだね。

ダイアナはそれでいいと思っていたから、やっていたんでしょ?」


私の幸せを思って、すべてを受け入れていた。

愚かなのはどちらなのだろう。私には分からなかった。


「ねえ、最近変だよ。何かあったの?」


「ロベルトのことを言っているんだったら、私は本当に何も知らないわ。

閉鎖病棟に入院することも、今日聞いたばかりなの」


「そういうことじゃなくて、私をいじめなくなったでしょ?

ロベルトへの嫌がらせが始まったのも、同じくらいの時期だったから」


確かに、偶然にしてはできすぎている。

怪しまれても仕方がない。

マリアはゆっくりと呼吸した。


「私ね、犯人を知ってるんだ」


「どういうこと?」


「知ってるんだよ、ロベルトに嫌がらせをしていた人。

ダイアナのふりをしていたんだってね」


彼女の両目がぐるぐると円を描いている。

その目はあまりにも不気味だった。


「ねえ、そこにいるんでしょ? 

隠さなくたっていいんだよ、全部知っているんだから」


曲がり角から私がゆっくりと歩いてきた。


「やれやれ、これが聖女様の力ってわけか。恐ろしいもんだ」


聖女に選ばれた時点で、マリアは世界を見通す力を手に入れた。

これまで黙っていたのも、みんなが幸福になると信じていたからだ。


しかし、喪服の男が私の前に現れた。

彼が私に協力し、ロベルトを追放したことで、すべてが狂ってしまった。


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