ジークフリード王子


くっ、もう三度目とはいえ作画が良い人はやっぱり眩しい! 


輝くような黄金の髪、そして本当にサファイアみたいな瞳の人っているんだという衝撃。

少し不機嫌そうな顔がまた美しい。ああ覚えてるこの顔、ジークフリード王子だ! 

好みの顔すぎてつらいくらいのイケメンだけど、今は絶対に会いたくなかった……。


「あらジークフリード、遅かったわね」

「私が主催者だからな、暇ではないんだよ」


ロッティの言葉に応えながら、わたしとシャルロッテをちらりと見たあと、王子は両肩を上げた。


あれ、なんだか思ってたのと違う、冷たい口調に嫌味な感じ……ああそうか、もうジークフリード王子はシャルロッテのことが好きなんだ。そして、婚約者であるロッティのことは、悪役令嬢に見えているのか……そう考えると、凄く悲しい。


「ところで、シャルは何の話をしてたのかな?」


シャ、シャルですって!? これ完全にロッティのことではないよね。

てことは、こっちのシャルロッテの愛称かー。はぁ婚約者の前で他の女の子を愛称呼びするんだ、あからさますぎ。


ジークフリード王子の質問に答えるように、シャルがお辞儀をした。


「お誘いいただきありがとうございますジークフリード王子、フリューリング侯爵令嬢とはお話をしていただけでございます」

「そうよー、なんでこんな隅っこいるのって話してたの」

「な! シャルロッテ、君はまたそんな嫌味なことを!」


あからさまに不快な表情をして、ジークフリード王子はシャルの傍に行き、肩に手を置いた。シャルは居たたまれないといった表情で顔を伏せてしまう。


うっわ婚約者の前でそんなこと……こういうシーンってゲームやってる時は主人公目線だからわからなかったけどイラつくー。しかもあの顔、美形なだけに余計腹が立つ!

ロッティはロッティできょとんとした顔をしている、言い返すのかな?

でも、今のとこ全然悪役令嬢ではないよね……?


おかしな空気の中、二人の顔を交互に見ていると、顔を伏せていたシャルが口を開いた。


「あの、ちが……」

「はぁ? 嫌味ですって?」


うぉぉいロッティ! 今シャルがなんか話そうとしてたよ? 妨害しちゃダメでしょ。

誤解されてどんどん悪い方向に言っちゃうじゃない!


「嫌味じゃなければ何だというんだ?」


ジークフリード王子は、なんだか憎たらしい表情でこちらを睨みつけてくる。

そんな風に見られていることをまったく気にした様子もなく、ロッティはフンっと鼻で笑った。


「シャルロッテをこんな派手なパーティに招待したんならドレスの一枚でも贈ったらどうなの? 気が利かない男がいるもんね、この子こんな隅っこにいたのよ? わかる?」

「なんだ、嫉妬かシャルロッテ」


ロッティの言ったことを聞いているのかいないのか、口の端を上げて自信満々に微笑むジークフリード王子。あーこいつムカついてきたーいいのは顔だけだ、顏だけ王子だ!


横を見ると、ロッティはまたきょとんとした顔をして今度は小さなため息をついた。

そして、私の顔を見て首を小さく横に振る。


わかるわロッティ。こいつ、腹が立つくらいイケメンで声も格好良くてスタイルも最高だけど、心底ムカつく! 話が通じないやつだ。


わたしはロッティの目を見つめて大きく頷いた。

ロッティもそれに答えるかのように頷き、ジークフリード王子とシャルにくるりと背中を向けた。


「あーあお話になんないわー気が利かないうえに理解力もない、行きましょエミリー」


行こうとするロッティの背中に、何か言いたそうなシャルが一歩踏み出した。

その肩を優しく抑え「大丈夫だよ」とジークフリード王子は甘い言葉でささやく。

気づくと、庭園の隅っこで話しているのに、いつの間にかパーティに参加している人たちの半数がこちらを凝視していた。


うわああ最悪だ、ここでの会話は離れすぎていて皆には聞こえていない。

状況だけ見ればロッティがシャルをいじめてるとこにジークフリード王子登場! って感じに見える。

しかもめちゃくちゃ得意顔してるよ、なんなのこのイケメン、凄くムカつく、かっこいいと思った気持ち返してほしい! 顔だけ王子め!


皆の視線を浴びながら、仕方なく王子に頭を下げてロッティを追いかけた。


「ねえロッティ、大丈夫?」

「何が? 平気よ、いつものことじゃん。まわりもどうせ後で好きなように言うんでしょー」


歩きながら大きな声で話すロッティに、今までこちらを見ていた貴族たちは、慌てて目をそらして何事もなかったように会話を始めている。


こんなの嫌、だってロッティは全然悪役令嬢じゃない! 感じ悪いのはシャルに恋してる王子のほうだ、あんな嫌味言うならさっさと婚約破棄すりゃいいのに……あれ、婚約破棄? わたし何か大事なこと忘れてる気がする……。


何か思い出せそうと額を押さえて歩いていると、ロッティがわたしの顔を見てふふっと笑った。


「もうなんでエミリーがそんな顔してんのよ、いいじゃんもう帰ろ、あ!! 忘れてた」


突然大声を出して立ち止まるロッティに、貴族たちが一斉にこちらを見た。


「どうしたの? びっくりした」

「ごめーん、ここにきた最大の目的忘れて帰るとこだった」


いつものように綺麗な歯を見せてロッティはニッと笑った。


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