もう一人のシャルロッテ



「え、どこに……?」


やっとの思いで問いかけた時には、既にロッティは壁際の少女に向かって歩き出していた。

え、ちょっと待ってよ、嫌だ、修羅場なんて見たくない! 


慌てて後を追いかけると、ロッティは少女の前でぴたりと立ち止まり「ごきげんよう」と声をかけているところだった。


声をかけられた少女は、恐る恐るといった様子で、ゆっくりとこちらに向かって顔をあげた。


くっ……うわぁぁーーー油断してたーーー!

また目が開けていられないくらいに発光した美少女だっ! 作画が違うやつだよーーー!

とろけそうなはちみつ色の髪、瞬きするたびに効果音がつきそうな美しいペリドットの瞳。

少し寂しげな表情もたまらない。あぁさくらんぼのような唇ってこういう事を言うのね、なんて可愛いの……。

ロッティが世界中の宝石を集めたような美しさなら、この少女は一斉に花が咲き乱れたような美しさ、どっちか選べなんて無理ってくらいタイプが違う!

この作画の良さは、間違いなくもう一人のシャルロッテだ。 


「お声がけありがとうございます、フリューリング侯爵令嬢」


もう一人のシャルロッテがぎこちなくお辞儀をした。


くぅー声も可愛いのね、ってまた興奮してたわたし、落ち着こう。だって、この後ロッティがどうなるかがわからない。

頭を下げる少女の姿を、ロッティは無言のまま眺めている。

どうか、どうか豹変しないで……。


「ねえ、その侯爵令嬢ってのやめてよー同じ名前なんだしさ、愛称でいいって言ったよね」

「申し訳ございません」

「謝んないでよー謝るとこじゃないでしょ、もうー」


なんだろうこの感じ、豹変はしてない、いつもの口調のロッティだ。

でもそれが怒っているように見えるかもしれない、難しい。


「ところで、シャルロッテはこのパーティに招待されたの?」

「はい……」


ううぅこの状況、わたしからすると眼福でしかないんだけど、シャルロッテが緊張しすぎて駄目だ。

だって、ずっと下を向いている。これは他から見ると絶対にいい状況じゃない。

姿勢が良く堂々とした態度のロッティ、貴族の令嬢。

それに対して、顔を伏せた地味なワンピースのシャルロッテ、しかも彼女は平民だ。

こんな会場の隅っこ、悪役令嬢がいじめてるテンプレそのままだよ、呼び出したように見えるやつだよ!

どうすればいいの……何か理由を付けて移動するしかない。


「ねえロッティ……」

「えーー招待ってジークフリードからでしょ、なんでこんなとこいるの?」


うわああ話遮られた、そして今のって嫌味? もうわかんない。


「教会から直接参りまして、まさかこんな盛大なパーティだとは……申し訳ございません」


シャルロッテは顔を伏せたまま頭を下げる。

いやいやこれ絶対に責めてるように見えるでしょ、しかもなぜ謝るシャルロッテ!

この二人が一緒にいると絶対にいいことない!

それに今ジークフリード王子が来たら……ん? ジークフリード王子が来たらって、わたしどうしてそんなこと思ったんだろ?


ちょっと待ってこの不穏な感じ、わかる、わかってしまった……これイベントフラグじゃない!?

今の時点で婚約者=ゲーム的には破棄される側、ってことはロッティが悪役令嬢決定……。


ああもう、これからどうなるの? 小さい頃からゲームも本もたくさん読んできたのに、未プレイの世界だなんて辛すぎる。

イベントが何一つわからない……ん、わからない? 

いやだいたいわかるかも……!


「…………んだ、ほんっと気が利かないわね、あの王子」


あ、大変だ、いつの間にか二人の話が進んでる。

これから何が起こるかはわからないけど、わたしがやらなきゃいけないことはこれしかない!

それは、絶対にこれ以上、いや今後『ふたりのシャルロッテ』を接触させないこと‼ 

王子とヒロインのイベントはどうもできないから無視するしかないけど、意地悪系イベントはこの二人が接触しなければ絶対に怒らないもんね! ようし!


「ねえロッティ」

「ん?」

「他の方に会う予定もあるんじゃない? そろそろあちらに行きましょう」


私の言葉に、ほぼ真下を向いていたシャルロッテが、ちらりとこちらを見た。

とても悲しそうな表情をしている。


えーなんだろ、その表情の意味がわからない……でも可愛い。さすがヒロインってそんな事は今はいい。

とにかく、二人がずっと一緒にいちゃいけないんだって!


「えー会う人なんていないよ、あ、そうそう、今話題に出てるジークフリードくらいかー」


はぁ、そのジークフリード王子には、絶対に会いたくないんですけど……。


「どうした? 私の噂話か」


後ろから突然声をかけられ、心臓が止まりそうになった。

薄目で振り返ると、そこにはまた、目がつぶれそうなほど輝いている誰かが立っていた。


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