ソラナキ灰色

七星北斗(化物)

1.ハジカレ

 《人類が滅びるまで三百六十五日》と書かれたプラカードを掲げる人たちが世界各国に現れた。


 それはニュースにも取り上げられる。


 何かが世界に起ころうとしていた。


 路地裏を抜け、曲がり角に差し掛かった時、それは突然視界に入った。


 黒い体毛のよくわからない生き物。


「犬?」


「犬ちゃうわ」


「喋った!」


「犬だって喋りたくなる時があるわ」


「いや、犬じゃん。思いっきり犬って言っちゃってるし」


「俺の名前はケルベロス、誇り高き冥界の番犬」


 私の言葉を無視して、話を進めることにしたようだ。


「やっぱり犬じゃん」


「五月蝿い」


「そんなことよりも、あれ何。お仲間さん?」


 サッカーボールくらいの大きさの羽の生えた人面鳥?うん……気色悪い。


「もう来てしまったか。強硬派の糞天使が」


「天使!あれが?」


 犬ことケルベロスさんは、天使?人面鳥に向き直った。


「話はあれを片付けてからだ」


 まさか、あれと戦うつもりなの?そう思った矢先にケルベロスは、飛翔したのかと勘違いするくらい高く飛び跳ね、その鋭い牙で人面鳥に噛みついた。


 ケルベロスの顎の力は凄まじく、人面鳥の体を噛み砕き、辺り一面に紫色の血が飛び散った。


「ゲッ、臭さっ」


 人面鳥の血は臭いし、服にちょっと付いた。最悪。


「話を戻そう」


 そんなことを気にせず、ケルベロスは再び話しを進める。


【神 悪魔 人は互いに不干渉の協定を結んでいた。


 例えば神が人を攻めたとしたら、人と悪魔は神を攻める。


 そういう三竦みの関係だったんだ。


 しかし人族の申し出により、その関係は壊れた】


「神より与えられし十二の試練、というお伽噺は知ってるか?」


「それなら知ってる」


 【昔々、若い夫婦がいました。


 裕福ではないが、食う物には困らず。


 毎日、百姓の仕事をして暮らしていました。


 そんな夫婦には、ある悩みがあり。


 それは子宝に恵まれず、喧嘩することも増えていき。そんなある日の朝方。


 オギャァ、オギャァとキャベツを育てている畑から、赤子のような鳴き声が聞こえたのです。


 夫婦は顔を見合せ、何事かと畑を調べに行きました。


 驚いたことに、その畑には小さな赤子が元気に泣いています。


 近所には赤ん坊が生まれたという話もなく、子宝の恵まれない夫婦への、神様からの贈りものだと喜び育てることにしました。


 そして赤子には、ヘルリャンと名付け夫婦は幸せいっぱいでした。

 

 ある時、ヘルリャンの体に聖痕が浮かび、聖女と呼ばれることになります。


 ヘルリャンには、様々な冒険が待っていました。


 仲間と共に試練を乗り越えたヘルリャンは、願いを叶える権利を神様から与えられ。


 しかしこの世界は洪水に巻き込まれて、全てが水の底。


 不憫に思った神様は、ヘルリャンに方舟を与え、洪水から逃れる手助けをしました。


 そして新天地を見つけたヘルリャン一行は、その地で平和で幸せに暮らしましたとさ】


「という話でしょ?」


「そうだ」


「その話が今関係ある?」


「お前はヘルリャンと同じ魂を持つ」


「私が!嘘でしょ」


「嘘ではない」


「信じられないよ、突然そんなこと言われても。それに君は本当に悪魔なの?」


「どういう意味だ?」


「だって、悪魔って欲望に忠実で、人を騙すのが楽しいみたいなイメージじゃん。君は助けてくれたし、何と言うか礼儀正しいよね」


「それは下級悪魔の話だ。人が強い欲望を持ち、悪魔と堕ちた場合、下級悪魔になる」


「君何なの?」


「元神だ」


「神様!?」


「私以外に神はいない。つまり人は宗教を信仰する上で、他宗教の神を全て悪魔へと堕とす」


「傲慢な話だね」


「そうだな。忠臣二君に仕えずという言葉があるだろう。他宗教の神がいたら邪魔だし、神は一神しかいないってな」


「それで私はこれからどうすればいいの?」


「お前はこれから、前世で共に戦った仲間を集め、魔界の王に会わなければならない」


「前世の仲間!魔界の王?」


 ここまで話を聞く限り、事実がどうあれ、この世界に何かが起ころうとしていることは理解できた。

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ソラナキ灰色 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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