第4話 お見合い

「この檻、6つありますけど、何か違うんですか?」

「嗚呼。右に行く程序列が高いんだ。つまり、一番右は『終』クラスの妖怪がいる。」

「その中でも、一番凄いのは?」

「うーん…橋詰さん、何だと思う?」

「ん?そうだな…やっぱ、牛鬼ギュウキだろ。」

「牛鬼…。」

「あ、そうだね。」

「だがな、別に最初から終の妖怪を選ぶ必要はない。」

「確かにそうだね。他の序列のでも進化して、上のランクに上がることもある。まあ、可能性だから、必ず進化するとは言い切れない。ね?橋詰さん。」

「五月蝿い。」

「えーと…雲野さんの妖怪は?」

「俺の?こいつ独魚ドクギョって言うんだけど、独魚は最初から終。」

「…」

俺は試しに終の妖怪がいる檻に向かった。

「あの奥にいるデカい蜘蛛くもみたいなのが牛鬼ね。」

俺が檻の中に足を踏み入れるのを躊躇ちゅうちょしていると、善養寺が来た。

「善養寺…」

「…まあ、見てろ。」

そう言うと、善養寺は牛鬼の前に向かった。

「牛鬼。俺と契約しろ。」

「アァ~ン?」

俺が契約する訳でもないのに、気付いたら、手が汗を握っていた。

「ウゥーン、血ヲ舐メサセロ。」

善養寺は紙で軽く指を切った。

「ほら…」

牛鬼はそれを舐めた。

「…ッ。」

「フゥーン。善養寺ノ所ノ餓鬼カ。面白イ。良イダロウ、契約ダ。」

「…ふぅっ」

俺が足を止めている間に、善養寺は牛鬼と契約したようで、牛鬼を引き連れて来る。

「神間。先行ってるぞ。」

「善…養寺…。」

「凄いねぇー、爽ちゃん。牛鬼と契約するなんて。」

「雲野さん…善養寺って何者なんですか…?」

「ありゃ、聞いてない?」

「…?何も…」

「そ…。爽ちゃん家はねエリート異交一家でね。」

「え…?でも、そうしたら、特待生でも…」

「そう。でも、枠は8人が限界。7人決まって、残り1枠。それを争って、あの斎君と勝負したんだ。」

「斎君…?」

「あ、琉子君ね、琉子斎月君。で、勝負の内容は、どちらが先に強力な妖怪と契約出来るか…」

「え…?良いんですか、そんなの?」

「うん、勿論宜しくない。だから、二人は秘密裏にやった。」

「で、琉子が先に契約した、と…」

「そ。ホムラっていう炎の妖怪とね。序列は終。でも、焔はまだ進化すると思うよ、俺。」

そもそも、契約ってそのー、何だ…軽い感じで決まるんですか…?」

「うーん。妖怪次第だからな…。」

「もし、俺がここでどの妖怪とも契約出来なかったら、どうするんです?」

「そしたら、また別の妖怪の所に頼るか…そうだな。神なんかと契約だね。」

「つまり、妖師ではなく神師カミシに…?」

「嗚呼。」


契約者の中にも種類があり、何と契約するかで四種類に分かれる。

妖怪と契約する「妖師」が殆どで、他に、

神と契約する「神師」、

悪魔と契約する「魔師マシ」、

仏と契約する「仏師ブッシ」。別名「ソウ」がある。

但し、最初から神師や仏師になることはあり得ないに等しく、大抵は妖師になってから、妖怪と契約を解除し、また別になる。しかし、必ずしも神達が契約してくれるとは限らないので、契約出来ずにそのまま異交を辞める者もいる。契約出来るのは、一人一体までだからである。だが、時々二体以上を同時に契約出来る者もいる。


「さ。早く済まないと目欲しい奴がいなくなるよ。」

「神間。」

降り返ると、浅桐と細田がいた。

「先行ってるぞ。」

「あ、おう…」

「…よしっ。…あ?」

目の前にいた筈の魑魅魍魎ちみもうりょうがいなくなっていた。

「うん、うん…」

雲野は俺の肩をゆっくり優しく叩いた。


「急」も空だったから、俺は「中」の妖怪の檻に向かった。

「残ってるのは三匹か…。」

犬っぽいのと、猫っぽいのと、腹が障子の変な壁みたいなのがいた。

「…これが『中』…」

「まあ、こんなもんよ。」

「雲野さん…」

「さ、君が最後だ。えーと、左から、土佐犬の妖怪の『是代丸ゼヨマル』、三毛猫の妖怪、『洲猫スミョウ』、障子の妖怪『ハザマ』。」

「…ぁぁ」

すると間が立ち上がった。

「ん…?」

「おっ。」

間は俺に向かって腹の障子を開閉し続けた。

「な、何だ…?」

「嗚呼。間の障子はワープ機能が付いてるんだ。多分、それのアピール。」

「ア、アピール…?」

「間は山の中で寂しそうにしてた所を保護したから、多分拾って欲しいんだろ。」

「…間。」

呼んだら、間は嬉しがってるのか開閉速度が上がった。

「あの、ワープって?」

「ん。そのまんまの意味だよ。」

「え?」

「百聞は一見に如かず。そーだなー…『檻の外』って心の中で思いながら、その障子の中へ入ってみて。」

「檻の、外…」

俺は心の中で「檻の外」と唱えながら、間の下へ向かった。

間は閉じるのを止め、俺が入るのを迎える。

間の腹の闇へ飛び込むと、一瞬だけ辺りが真っ黒になった。次の瞬間には、俺は檻の外にいた。

「ぅおっ…」

「ふふーん。気に入った?」

俺は返事もせず、間へ駆けて行った。

「間!俺と契約しよう。」

「…ッ!!」

間は言葉こそ発しないが、障子を勢いよく開閉した。多分、嬉しいのだろう。

「良かったね。」

「ええ。」

何で自分がわくわくしてるかはよくわからない。強いて言うなら、やはり妖師への道を確実に進んでいるからだろう。

「感動の名シーンかもしれないが、時間無いぞ。」

橋詰が少し呆れたような顔でこっちに来た。

「あ…」

「ささ。行こ。」

「はい…!ありがとうございます。橋詰さん。雲野さん…!」

「俺は何もしてないぞ。」

「俺は…まあ何かした方か…ってアレ?」

「早速ワープしてたぞ。」

「使うねー…なあ独魚。そういうの出来ない?便利だからさー。」

「無理ダ。」

「えぇ…そんな。」


俺は早速ワープを使って、皆の待つ所に飛んだ。

「よっ…と。」

「あ。神間。」

「細田…浅桐…!」

「お前、いつの間に。」

「はは…」


「全員揃いましたね。」

「ぉん…?」

「昨日も会いましたよね。異沓訓練校教頭の廣田ヒロタです。」

「あ…あの、つまんねー説明してたババアだ!」

「そこ…聞こえてますよ。」

「へっ?」

「私は妖怪の力で地獄耳を得ました。昨日の貴方の微かな寝息すら正確に聞けます。」

「うっ…」

「橋詰さん達に聞いたかしら?今月の課題。」

「嗚呼。何か妖怪を手懐けとけって言ってました。」

「まあ、そんな所ね。」

教頭の横にいた男が一歩前に出る。

「生活指導の狩野カノウ狂正キョウセイだ。」

「あ?何で生活指導?」

細田が問う。

「本来説明する泥濘ヌカリ先生がお休みだからだ。」

「ふーん。」

「んなことはどうでも良い。さて、今月の31日に行われる第1の試練は…ズバリ、妖怪と正式な契約を結べ。」

「は?俺らはさっき妖怪と契約したぞ。何を今更言ってんだ。」

「…君達が先程行った契約はあくまで仮だ。妖怪達にも事前に伝えてある。『余程気に食わない限り、大目に見て契約しろ』ってな。」

「な…」

「この一ヶ月を使って諸君らは妖怪達に品定めさられ、本当の契約へと辿り着くんだ。」

「…」

「妖怪達に認められないような奴は妖師としての基本的な素質がない。だから、失敗した場合は我が家に帰って貰おう。無論、基本的にそのルールは変わらない。落ちたら、帰宅。」

「俺達特待生もまさかやんのか?」

特待生の一人が声をあげる。

「これはこれは北条ホウジョウ君。そんな訳無いだろ。素質を見込んで特待生扱いなんだから…勿論、君らは颯爽さっそうとこんなのクリアしていくのだろう?」

「…つっ…」

狩野が北条に圧をかける。

「さ、頑張れ…。異交の卵よ…」

「…っ」

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