その正体、解明

20

 次の捜査会議は、遠山の証言に、館の報告も合わさって、一気に進展することになった。


 あれだけ不透明だった怪異の正体。

 ……その輪郭を漸く捉え始めている。


 捜査官達の中には、歓喜の色を隠せていないものが、ちらほら存在していた。





 また、いつもの会議と違う点がもうひとつあった。

 


「はいはーい、陰キャもしくは陽キャどもー。


 ホワイトボードみるッス。

 これからオレのありがたーい推理を、耳をかっぽじってよく聞くッスよ」



 白衣を翻して、署内では、サイレン以外あまり見かけることがない色彩が、遠山達捜査官の面々にマーカーを突きつける。



 伊沢が、いよいよ〝専門家〟としての見解を披露するために、会議にその姿を現していた。

 

 元凄腕捜査官の登場に、もしくは、そのあんまりな言動に、室内は定期的にざわつくが、大体いつもの伊沢の様子であるので、そこは省略する。

 



「まず単純に、キミたちの予想を聞いてみるッスかねぇ。


 ……ホイ、じゃあ、そこの茶髪くん」

 

「じ、自分ですか……」

 

「そうそう。

 キミの怪異予想を披露してみるッス」

 

 

 まさか、急に当てられるとは思っていなかったのだろう。


 指された捜査官は、戸惑いながらも、立ち上がった。

 


「……自分は、しょうけらだと、考えています」

 

「ふーん、理由は?」


「遠山刑事と、館警部の報告を聞く限り、共通点は、盗みという犯罪行為だと推測されます。


 そのため、罰を与える怪異として報告がある怪異、しょうけらではないかと考えました。


 目玉のある怪異として考えるなら、目目連や、百目、百目鬼なども考えましたが……」



「はい、ブッブー!!」



 伊沢は、頬を膨らませて蛸口をしながら、大きく手をバッテンにクロスした。


 腹立つな……と、あまり気があうことがないメンバーの思考が一致した。

 


「しょうけらは〝規則やぶり〟で罰を与える怪異ッス。


 洋士の報告によれば、入院した受刑者たちの共通点は【窃盗による犯罪歴がある】ものだけ。

 しかも、しょうけらの罰は、目玉を生やすんじゃなくて、三本のかぎ爪を使うという報告があるッス。


 確かに似てるところはあるッスけど、もうちょっと合ってる怪異がいると思うッスね」



 けちょんけちょんに言われ、特に罪もないはずの捜査官は、気落ちした様子で着席した。


 それに目もくれず


「はい、残念な解答だったので、もう1回怪異の特徴を、整理するッスよぉー」


 と、傷口に塩を塗りたくりながら、解説を始めた伊沢は鬼か何かかもしれない。

 


 

「今回の怪異の特徴は、【盗人に目を生やす怪異】だと考えられるッス」

 

 

 

 遠山が追いかけた万引き犯、窃盗の罪を犯した受刑者、そして、自覚がありながら決して心当たりを明かさない被害者たちも、恐らく何かしら盗みを働いたことがあるのだと推測できる。

 

 もしそうならば、確かに後ろめたくて、警察には心当たりを明かせないだろう。


 後ろの席の方で、遠山も、こっそり

(意義無し)

 と頷いた。

 


「被害者たち数名が利用していた、如月商店街は万引き被害に悩まされていたッス。


 発生原因は、恐らく、窃盗被害者たちの願望が引き金になったんでしょう」

 


「でも、万引き被害は、前々から報告があったのでは?


 なぜ、今更怪異の発生報告があがったのでしょう?」


 

 先ほど指名された捜査官とは、別の捜査官が手を挙げる。



 確かに、盗難被害は前々から市内に存在していただろう。

 

 なぜ、今のタイミングになって、怪異の報告があがったのだろうか?

  この疑問は、抱いて当然のものであった。



 伊沢は、「いい質問ッスね」とにやりと笑った。



「それは、季節と、市内の開発が関係してるッス」

 

 

(……季節と、市内の開発?)

 

 遠山はあまりピンと来ず、首を傾げているのに対して、館が「なるほど」と声を挙げる。


 

「冬は、万引きが多発する季節だな」


「はい、洋士、正解。


 冬は厚着の季節ッス。コートやジャンバーなど、上着を着込むッスよね。


 体の線が出にくい、袖もブカブカした服装が多くなる。

 

 ……盗んだ商品をこっそり忍ばせるのに、さぞかし役立つとは思わないッスか?」

 

 

 確かに、遠山が捕まえた万引き犯は、コートに縫い付けてある大きめのポケットを使って、万引きした商品を持ち去ろうとしていた。

 

 布が厚いコートは、ポケットの盛り上がりも分かりにくい。

 直接現場を見ない限り、気づくのは難しかっただろう。

 

 

「加えて、如月商店街は、近くに大型スーパーが出来たことで、客足が減っていたッス。  



 万引きの被害に遭いやすいのは、監視カメラが付いていないような店舗。


 昔から地元で経営していた店ほど、その傾向にあるッス。

 

 如月地区に住む被害者は普段は大型スーパーを利用していた。

 証言からして、如月商店街には万引きする時だけ、訪れていた可能性が高い。

 

 開発に伴って新しい店舗に人は流れ、冬になって増えた万引き被害。

 

 窃盗に関して鬱憤が溜まりやすい状況だったんでしょう。



 それが今回、怪異発生のトドメのひと押しになったと考えられるッス

 


 盗難被害に対する恨みつらみ、それが、今回の怪異を生み出した……。


 なら、しょうけらよりも、ぴったりな怪異が居るッス」

 

 

 

 伊沢は得意げに胸を張って、周囲を見渡した。

 

 

 

「その名も、【百々目鬼ドドメキ】。

 


 この怪異が、今回の怪事件の正体ッス」

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