第22話 食後の運動
一心不乱に食べ進め、残りの一口もいま飲み込んだ。
ずっと咀嚼していたからか、口が寂しい。
サンドイッチ以上の満足を感じながら、立ち上がってマスターを見やる。
彼女はカウンターで頬杖をして、俺をにこにこと見つめていた。
「あの、ごちそうさまでした! めちゃくちゃ美味しかったです!」
頭をさげながら感謝を叫ぶ。
すると「お粗末様でした」とにんまり笑みを深めて、空いた皿を下げてくれた。
ああ、大満足だ。そろそろ帰って編集しなきゃ間に合わ……。
のんきに考えながら、椅子の上に置いたリュックに手をかけて固まった。
ここに来た目的は昼食ではなくて、動画撮影なことを思い出したのだ。
慌ててマスターへ詰め寄る。
「あの、実は『記憶をフィルムに出来るフィルム屋』っての探してるんですけど、ここじゃあないっすよね……?」
浅いしわがところどころ目立つ、彼女の顔を見つめる。
もし目から光線が出ていたら、その顔に穴が開いてしまうのではないかというほどに。
回答次第で、動画の力が雲泥ほど変わるのだから仕方がないのだ。
マスターの唇が微かに動くのが、スロー再生のようにゆっくり見える。
ここで、俺の人生が変わる。
「ええ、そうですけど……。てっきり、ただコーヒーを飲みに来ただけかと思っていました」
そう、彼女は笑った。
一方で、俺は全身が強張った。
ここがあの、都市伝説のフィルム屋なのだ。本当に、本当にバズれるかもしれない。この動画で、一発逆転が出来るかもしれない……!
カチリ、と運命が姿を変える音がした。
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