第20話 砕けかけた希望

 重い足を引きずり、なおも街を駆け回る。

YouTuberとしてここまで来たからには爪痕を。と、欲張ったのだ。


 あれから、俺はいろいろな人に聞いて回った。

下校中の女子高生、談笑中の主婦、買い物帰りの若妻。

けれど、結果は芳しくない。

返ってくる言葉はいつも「なにそれ?」の一つだけだった。


「はあー……。これは企画潰れたかなあ……?」


 深いため息をはきながら、今日という日を後悔する。

あんな争うようなシーンは使えないしなあ、と。

それでも、なにか落ちをつけるまでは、どこかを目指して歩き続けるしかなかった。


 何時間もカメラを持っている手はずいぶんまえに悲鳴をあげた。

それからも撮影を続けたから、どうしようもないほどにズキズキと痛む。

ただひたすらに辛い。


 今日のために買いそろえた機材も、練り込んだ企画も、時間も、体力も。

すべてがシャボン玉のように弾けて消えて、後にはガラクタと疲労感しか残らない。

そのうえ、腹の虫が「なにか寄越せ」と鳴き喚く。


 けれど、ただの貧乏学生でしかない俺の財布には、二千円ぽっちしか入っていない。これであと一週間ちょっとを生きなければならないから、無駄遣いはできないのだ。


「あー……。今度こそバズって、広告収入でがっぽがぽだと思ったんだけどなあ……」


 『そんな甘い考えで生きていけるか』

 最後に俺を叱った、父親の言葉。

はっ、うるせえよ。お前らなしで生きていけんだよ。

 カメラを握りしめて、下を向いて歩く。

後ろめたさから、目を逸らすように。


だから、気づかなかった。気づけなかった。

目の前に、『フィルム屋』とだけ書かれた看板があることに。


 突然、小石につまずいた。

うおつ、なんて情けない声をあげながら、視界の先につんのめる。

その拍子でカメラを落としそうになり、本気で肝を冷やした。

 ガチで焦ると、腹の中が冷たくなるんだ……。

胸をなでおろす。


 これが壊れるということは、ただでさえ淡い希望が壊れると同義なのだ。

そんなこと、あってたまるか。と、カメラを大事に抱える。


 その時、ようやく気付いた。先に置かれた、あの看板に。


「フィルム屋……。フィルム屋!?」

 慌てて駆け寄ろうとして、足を絡ませてしまった。

カメラを抱えたまま、押しつぶすように倒れ込む。


ガシャッ


 ひたすらに嫌な音がした。

吐きそうになりながら土にまみれたカメラを拾う。

すると、本体は無事だったけれど、レンズにひびが入っているのが見えた。



「うわあぁ、うわぁぁ……。マジか、マジかよ……。ああ……」

 たまらず頭を抱える。

貯金をはたいて買った希望が、ひとつのミスで壊れかけたのだ。


 今日はもう、これでは撮れない。

シメはスマホで撮るしかないか……。


 諦めは肝心。これでバズれば未来がある。

そう言い聞かせて、撮れ高を睨みつける。


「これでダメだったらお前を恨むからな……」

 呟きながら、いそいそと眼鏡型カメラとピンマイクをつける。

そして、撮影を開始した。

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