第15話 その後

 半刻は過ぎただろうか。

薄明るい映画館のようなそれの中心。そこには、初老ほどの女性が一人座っていた。


「あーあ……。あれはもう、いなくなっちゃうかもしれないね……」

ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒ。


 呟くように、けれど語り掛けるように。

ソファーに沈む女性は気味の悪い声で嗤い、嬉しそうに泣いた。


 落ち着くと、彼女は射影機へ歩み寄りつまみを回す。

すると会場は真っ暗になり、どこからかドクンドクンと腹に響くような重い音がすべてを包む。そして、男が焦ったように叫び出した。


「次もあるじゃないか! 紬が死ぬなんて……。堕してくれよ!」

「だめだよ、たか君。あなたはこの子のお父さんになるんだよ」


 それはさっきまで流れていた、少女が狂った原因となる映像だった。


 ああ、なんて可哀想な子供だろうか。

ヒッ

父親には要らないと言われ、母親には「代わりに死んでごめん」と謝られ、自分の命は母の屍の上にあると気づかされ。

ヒヒッ

なんて、なんて残酷な悲劇だろうか。

ヒヒッ、ヒヒヒヒッ。



 それから、何度も何度も。

初老の女性は同じ場面を繰り返し、気味の悪い嗤い声をあげ続けた。

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