04 タイムマシンで決闘の日へ

 親子はタイムマシンの二十四時間の使用権を得た。


「タイムマシンを稼働している時間が契約時間を超えると、最悪、利用者はその時代に取り残されることになりますのでご注意ください」


 タイムマシンを管理、レンタルする会社の社員から注意を受ける。


「あとは、特に過去に行くのであれば、過去の人物に接触するのは禁止していませんが歴史を大きく変えるような行動は厳禁です」


 破れば刑事罰もあり得るという。

 それは怖いので、親子はタイムマシンからできるだけ出なくてもいいように高機能なマシンをレンタルしている。


 必要なデジタル書類にサインをして、親子は時間旅行の旅に出ることになった。


 カプセル型のマシンに乗り込んで珍しそうにきょろきょろと内部を見回した後、息子はふと疑問に思う。


「あのお話の正確な時間って知ってるの?」

「まずはそれを確かめに行く」


 父親は自分が図書館で本を読んだ日にちを設定した。


「子供時代の父さんが本を読み終わった少しあとに向かうよ」


 父親がパネルを操作し、スイッチを入れるとマシンの外の景色がぐにゃりと歪み、濃い霧の中に入ったかのように真っ白になった。


 すぐに景色が再び形を結ぶ。

 無事、図書館の外に到着したようだ。


「父さんが確かめてくるから、おまえはここで待っていて」


 言いおいて、父親はタイムマシンを降りて図書館へと向かった。


 三十年前の図書館は、今見知っているそれよりもきれいだ。懐かしいなとつぶやいて、父親は民話コーナーに向かった。

 このコーナーの本は他よりも古ぼけて見えるのは同じだ。昔からある本をたくさん取り扱っているから当然だろう。


 このちょっと古風な感じがかえって新鮮だと感じたんだっけなと父親は頬を緩める。


 さて、懐古にばかり浸っていられない。目的の「戦国境界線記」を探し出して手に取った。

 パラパラとページをめくり、源と死婆の戦いの日の記述を探した。


「お、あったぞ」


 これが間違いでなければいいのだけれどと願いながらメモに書きとめる。

 マシンに戻って、早速手に入れた日時と場所をセットする。


「戦い、見られるといいね」

「うん。さぁ行くぞ」


 親子は心を躍らせて、景色が変わるのをじっと見つめた。

 白い霧が晴れると、親子は感嘆の声を上げた。


「うわぁ、緑ばっかり!」

「今でも山の方に行ったらこんな感じだろうけど、空気が澄んでいるな」


 空は薄雲がかかっているものの綺麗な水色だ。木々の緑が目にまぶしい。空中に浮かんだマシンの斜め下に集落らしき家の塊が見える。


「手前が源の集落だな。決闘は山側の空き地でやるって書いてあったから……」


 父親がカメラを操作すると、眼前のスクリーンに地上を大写しにした映像が映し出される。


「すごい綺麗に映るね」

「ステルスドローンを飛ばして映像を撮ってもらってるんだ。これならここから降りて行かなくても見られるからね」

「刑務所に行く心配がなくなるね」


 息子が笑い、父親もうんとうなずいて笑った。


 さて、そろそろ決闘の時間になるなと親子が緊張と期待感を持ってモニターを見つめていると。

 双方の集落から来たであろう数名が映った。


「あれが源か」

「あっちのおばあさんがきっと死婆だね」


 親子がすぐに推測できるほどに、源と死婆と思われる二人の恰好が他の者達と違っていた。


 源と思しき老人はは小袖の裾をたくし上げ、ふんどしをあらわにしている。

 死婆であろう老女は裾を分けて別の布で脚に縛り付けている。

 服装以上に、彼らの顔は険しく、互いを見る目に力がこもっている。


「今にも殴りかかろうかって雰囲気だな」

「面白い勝負になりそう」


 当人たちにとっては面白いなどと言っていられないのだろうが、親子にとっては過去の話で結末も決まっているのでエンターテインメント性しかない。


 それよりも、実際に本に書かれていた日時で決闘が行われるということは、あれはやはり民話で間違いなかったのだということが父にとっては嬉しかった。


 多少の誇張表現はあったとしても。


 さぁ、薄雲を晴らし、木々をなぎ倒すような勢いのある勝負が見られるのかと思うと興奮せずにはいられないというものだ。


 二人がタイムマシンの中でワクワクしながら見守る中、集団の中から爺と婆が進み出た。

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