03 話の結末は見に行こう
源も会うのはこれが初めてだが死婆という渾名の婆の存在は何度も聞いている。
これは、気後れしてはならんと源は腹をくくった。
話し合いは平行線をたどる。
源は死婆の集落が境界の杭を動かしただろうと主張し、死婆はそんなことはしていないの一点張りだ。
ならば、と死婆が挑発的な笑みを浮かべる。
「力で決するのはどうじゃ」
「というと?」
「決闘じゃ。勝った者の主張を取り入れる」
「人選は?」
「もちろん、おぬしとワシじゃ。おぬしはこちらが杭を動かしたと言い、ワシは動かしておらんと言うておる。それぞれの集落の意見を代表しておるのじゃから、その二人が戦うのが筋じゃろう」
にぃっと笑う死婆の顔はまさに肉食獣が獲物を狙うそれであった。
しかし、いくら舌戦で強さを発揮していてもしょせんは婆。
対し、源は日頃から木こりとして力仕事に従事している。
老いぼれ同士、力は互角と馬鹿にしたことが死婆の誤算となるだろう。
「いいだろう。その勝負に乗ろうではないか」
かくて、決闘は次の日の正午となった。
「力で決めるなんて、さすが戦国時代だね」
「庶民までそんな争いばかりしてたわけじゃないと思うけど」
「それで、おじいさんとおばあさんが戦ったの?」
「そう。お互い武器はなしでやりあった。その様子はこう書いてあった」
――二人は拳を打ちあい、蹴りが交錯する。
――互いの死力を尽くした攻防に、空を覆っていた薄雲は吹き飛び、大地には穴が穿たれ、木々はなぎ倒された。
「そこまでいくとファンタジーだよっ」
「うん、父さんも今なら先生の言うように歴史ファンタジー小説を読んだと書き換えればよかったんだろうな、って思う」
『民話』は事実に基づいた話を指す。フィクションである『歴史ファンタジー』、いわゆる『昔話』と区別化を図るためにそう分けられたのだ。
なので父親が民話の感想文として提出したものは、フィクションだから昔話だろう、と教師に突き返されたのだ。
だが当時の父は民話コーナーにあった「戦国境界戦記」を読んで書いたのだから民話で間違いないと、訂正を拒んだ。結果、国語の成績が下がって悔しい思いをしたのだ。
「勝負はどうなったの?」
息子が続きを促す。父親はにこりと笑った。
「今話してもいいけど、どうせなら見に行かないか?」
「もしかして、タイムマシーンを借りるの?」
「そう。あの頃は子供だったから無理だったけれど、今なら借りられるからね。『戦国境界線記』が本当に民話かどうかを確かめたい」
「行く! 行きたい!」
息子が飛びあがって喜ぶのに、父親も満面の笑みを返した。
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