第40話 現代の吸血鬼
黒崎が当時、通っていた学校近くの林の中。
ある日の早朝、黒崎は野生の鳥を捕まえ、その動物の血を口にしていた。
なぜ、そんな行動をとってしまうのか黒崎自身にもわかるはずもなく、ただ衝動のまま、彼は血を飲んでいた。
血が枯れた鳥を地面に埋めていたその時、偶然にも山本春が通りかかる。
何も知らない青年は震え上がり、当時、同級生だった黒崎の口元を指差し言った。
「黒崎くん…?口に…、血が…。一体…、ここで何を…」
自分の正体を知られたくない黒崎は山本春の胸ぐらをつかみ、睨みを利かせた。
「ここで見たことは、誰にも話すな」
「っ…どうして?ちゃんと理由を聞かせてよ。君はここで何をしてるの?」
山本が黒崎の手を振りはらい言った。
次の瞬間、黒崎の拳が山本の頬をかすめる。
「っ…」
山本がバランスを崩し、その場に倒れ込んだ。
そのまま、黒崎は山本に乗りかかり、一方的に殴りつづけた。
「はぁ…、はぁ…」
気を失った山本を前に、黒崎がごくりと唾を飲む。
自身の拳についた青年の血を見て、黒崎が無意識にそれを口にした。
「っ…!!!」
人間の血を飲むことは黒崎にとって、この日が初めてではなかった。
過去に父親から手渡されていた小瓶に入った血液。
それを黒崎は何度も口にしており、それが人の血であることは青年自身も気づいていた。
しかし、自分が何者であるのか、それを父親に聞くことができず、黒崎は苦しみの中に身を置くこととなる。
今まで味わったことのない高揚感を抱き、
黒崎はそのまま青年の首に噛みつこうとするも、父親の顔が頭をよぎり、その場を離れることにした。
その当時のことを思い出し、黒崎が頭を掻きながら笑う。
「何がおかしい?」
マイキーが眉間にしわを寄せ言った。
「あんたの言うとおり、俺は山本に本心を伝えるべきなのかもしれない…。あいつだけじゃなく、父さんともちゃんと話をすればよかった…」
「なら、そうすれば良いだけのこと…」
賢者の声。
マイキーたちの視線の先、賢者が杖をつきながらゆっくりと近づいてくる。
一歩、また一歩。
長い廊下をまっすぐ歩き、やがて老人が足を止め、黒マントの少女の顔を見る。
不思議そうな顔で綾香が首を傾げ言った。
「そうすればいいって、どういう意味?山本くんはもうここにはいないのに、どうやって彼に伝えるの?」
少しの沈黙の後、賢者が咳払いをして言う。
「私とそなたの力を使えば、おぬしらが事故に遭う少し前に戻すことができる。しかし、チャンスは一度きりじゃ。ここでの記憶を失ったおぬしらが、心に嘘をついたその瞬間、また同じことが繰り返されることになるであろう…」
「心に…嘘…?」
マイキーがつぶやいた。
今でも忘れることのない、林の中での出来事。
自分の嘘により傷つけてしまった綾香の後ろ姿を思い出し、マイキーがうつむく。
「…俺たちが転生する前の世界に戻るとして、キャロラインたちはどうなるんだ?」
「魔王がいない世界に変化する…。お主らと同じように記憶がなくなるのは避けられぬ運命じゃろう」
と賢者が綾香の肩に手を置き、話を続ける。
「無理強いはせぬ。自身の運命じゃ、どうするのかはおぬしがを選ぶがよい」
綾香が瞳に涙をにじませ
「私は、元の世界に帰りたい…」
と声を震わせ言った。
マイキーと黒崎が見つめる中、 賢者が口を開く。
「ならば、目を閉じて祈るのじゃ。そなたが現世で会いたい人を思い浮かべ、全ての魔力をわしに託すがよい」
賢者の言葉に綾香がうなずき、瞼を強く閉じる。
綾香はそのまま、身体中から湧き上がる魔力を絞り出し、それを賢者の体へと移していった。
「っ…」
二人の魔力がひとつになったのだろう。瞬く間に少女と賢者の周囲に眩しい光の輪が浮かび上がっていく。
それはやがて巨大な光となり、マイキー達を包み込んでいった。
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