第39話 謝罪

「セレナ…?」


黒いマントの少女を見て、マイキーがつぶやく。


静まり返った城の廊下、冷たいアスファルトの地面に倒れていた黒崎がすっと起き上がり言う。


「あのじじいが言ってた通り、あの女の魂は二つにわかれていたらしい…」


「お前…、無理やり賢者から話を聞き出したのか?」


マイキーが鋭い目付きで黒崎に詰め寄る。


張りつめる緊張感。


その空気を裂くような明るい声で黒崎が答える。


「ちがうちがう、あのじじいがペラペラ自分から喋ったんだよ。なんかさ、俺もよくわからないんだけど、綾香がここに飛ばされた時、魂が善と悪にわかれたんだって…って、あんたもじじいから聞いてるだろ?」


「セレナは…、消えたのか?」


マイキーが黒マントの少女の方を見た。


「ううん。ちゃんと、私の中にいる…。

私、わかるの…。すごく心が温かくて…優しくて…何だか悲しくなる…」


黒マントの少女がそう呟き、ぽろぽろと涙をこぼしはじめる。


「大丈夫か?」


マイキーが少女に優しく声をかけた。


少女は小さく頷き

「心が…ポカポカする。ずっと、失ってたもの…やっと見つけた…」

と泣きながらマイキーの胸の中に顔をうずめた。


マイキーが

「辛い思いをさせたな。でも、もう大丈夫だ」

と少女を優しく抱きしめ言った。


セレナによって呼び戻された記憶が蘇り、少女がつぶやく。


「思い出した…、私…。私があの時、本田さんを誘わなかったら、こんなことにはならなかった…。本当にごめんなさい…」


「綾香…」


「全部、私が悪いの…」


「綾香、それは違う。あれは事故だったんだ。誰のせいでもない」


二人の話を聞いていた 黒崎が地面に唾を吐き、

「そうそう。全ての元凶はお前だよ、綾香。お前が空き地なんかに来なければ、俺達はあのじじいに飛ばされることなかった」

と言って舌打ちをした。


沈黙。


「黒崎…お前。綾香に言うことがあるんじゃないのか?」


マイキーが眉間にしわを寄せ、言った。


「へ?」


黒崎がキョトンとした顔で目を丸くする。


マイキーが真剣な眼差で

「この世界に来る前、綾香を襲っただろ。忘れたのか?」

と黒崎に詰め寄る。


「あぁ!あのことか!無理やりキスして悪かった。って…、そんなくだらないことをずっと根に持ってたのか?」


黒崎の言葉に少女が唇を噛み言う。


「…最低男」


黒マントの少女がすっと立ち、黒崎の方へと近づいていく。


「綾香!奴に近づくな」


マイキーが少女の手を引っ張ろうとしたその時。


ぱんっ。


頬をたたく音が響き渡る。


「…いてぇ」


黒崎が自身の頬を撫で言った。


平手打ちした手を拳に変え、少女が言う。


「次は平手打ちじゃ済まないから覚悟して」


黒崎から綾香を引き離すようにマイキーが二人の間に割って入る。


「黒崎…。お前は綾香だけじゃなく、山本春にもひどいことをした…。シラキが言っていたよ。お前は彼の血を飲みたいが為に彼を殴っていたんじゃないかって…」


「…あぁ」


黒崎が息を吐きながら相槌を打つ。


青年は疲れているのだろう、目の下の隈はひどく、顔色もどこか青白く見える。


「お前が吸血鬼だってことを山本は知らないんだろう?ちゃんと謝って、彼に本当のことを言うべきなんじゃないのか?」


「…まぁ、そう言われればそうかもしれない。でも、もう過ぎたことだし、今さらどうしようもねぇよ」


黒崎が視線を落とし、山本春と出会った頃を思い返す。



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