第35話 善と悪

魔王の城の最深部。


賢者が錆び付いた鉄の扉の手前で立ち止まり、マイキーとシラキの方に振り向く。


「真実はあの扉の先じゃ」

賢者が杖を持ち直し、扉の方を指差した。


杖の先にある閉ざされた扉を見つめ、マイキーが扉の方へと近づいていく。


「マイキーさん」

そう言って、シラキが男の腕をつかんだ。


「どうした?」


マイキーが尋ねた。


「一緒に扉を開けましょう」


シラキの言葉にマイキーがうなずく。


背後で賢者が見守る中、二人は左右に分かれ、扉に両手をついた。


そのまま、手足に力を入れ、自身の体重をかけるように扉を前へと押し出していく。


地鳴りのような音とともに扉が開き、二人はごくりと息を呑んだ。


開かれた扉の手前、マイキーが眉をひそめ、ゆっくりと部屋の中へと入っていく。


緊迫した空気の中、沈黙を切るようにシラキが口を開いた。


「あれが…魔王…?」


赤いカーペットが敷かれた大部屋の中、王座のような椅子に一人の少女が腰掛けている。


黒いマント姿、フードを被ったその少女は金髪の長い髪をしており、足元は素足のように見えた。


少女はマイキーたちの方を見ることなく、部屋の天井にぶらさがったシャンデリアの影をなぞるように、素足をぶらぶらさせていた。


その少女から少し離れたところに立っていた大柄の男が黒いマントをなびかせながら、二人の方へと近づいてくる。


「魔王は俺と、彼女だ…」


聞き覚えのある男の声にシラキが驚く。


「おまえ…まさか…」


自身のトラウマが頭をよぎり、シラキが眉をひそめた。


自分の村を襲い、村人たちを殺した男の顔を思い出し、シラキが男の胸ぐらをつかむ。


「思い出した…、お前が、村のみんなを…!」


シラキの口元の牙を見て、男がにやりと笑う。


「あぁ、そうだ。俺が吸血鬼どもを消した。奴らは人間を襲う。

吸血鬼がこの世を支配する前に抹殺すべきだと、そう判断したんだ」


悪びれる様子もなく、男が言った。


「理由なんてどうだっていい!お前は僕が殺してやる!」


シラキが男の首筋に噛みつこうとしたその瞬間、マイキーがシラキに体当たりをする。


「っ…」


マイキーに押され、シラキがその場に倒れ込んだ。


「どうして…、どうして止めるんだ!!」


シラキが叫んだ。


青年の血走る瞳を見つめ、マイキーが言う。


「こんな奴のために、自分の手を汚す必要はない」


「そんなっ…、そんなこと言ったって奴は村のみんなをっ…」


「つまんなーい」


金髪少女が王座から立ち上がり言った。


その声を聞いた瞬間、マイキーとシラキの体が凍りつく。


「…」


マイキーが少女に近づこうとした、その時。


黒いマントの男が

「待て」

と言って、二人の間に割って入った。


「どいてくれ。俺はこいつが何者なのか、確かめなきゃならない…」


マイキーの言葉に少女がクスクスと笑い、マントの男の背中に手を当てた。


見えない強い力に押され、黒いマントの男が吹き飛ぶ。


男はそのまま壁に打ちつけられ、気を失ったのか、その場に倒れこんだ。


「今の…、あんたがやったのか?」


マイキーが少女に尋ねた。


「そうだよ。びっくりした?」


いたずらっぽく少女が笑う。


少女の笑い声が響く中、マイキーがおそるおそる少女のフードを取る。


「…どうして」


マイキーが声を震わせ言った。




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