第33話 魔王の城

「うっ…ここは?」


マイキーが目を擦りながら体を起こす。


物置部屋のような薄暗い部屋の中、男が周囲に目を向け、自分が置かれている状況を確認していく。


小じんまりとした部屋の中には、何も置かれておらず、1つしかない扉の鍵はかかっていないようだった。


マイキーの目の前、シラキが目を覚まし、つぶやく。


「っ…山本?」


自分の体に違和感を覚えつつ、マイキーが目を凝らし、自分の手を見た。


「なっ…」


男の手はさっきまでの茶色い手のひらではなく、人間の手をしていた。


魔法が解け、元の姿を取り戻したマイキーが声を震わせ言う。


「どういうことだ?俺は…、元の体に戻ったのか?」


金髪の男が両手を顔に当て、自分の肌の感触を確かめていく。


茶色いモンスターだった時には感じられなかった、体温を感じ、マイキーは瞳をうるませた。


「俺の体だ…。元に…元に戻った。でも、どうして…」


戸惑うマイキーを見てシラキが口を開く。


「まさか、あなたは…」


驚きを隠せない青年を前に、マイキーがうなずき

「ああ、俺はゴールデン、マイキーだ」

と答えた。


「っ…」


突然、シラキがマイキーにつかみかかり、白い牙を向く。


「なっ…」


マイキーはシラキに押し倒されないよう、ぐっと両足に力を入れ、青年の両肩をつかみ、その体を引き離した。


「シラキ!やめろ!」


マイキーが声を上げた。


「っ僕の…リュックは?」


シラキが自我を取り戻し、額の汗を拭う。


「お前のリュックは、おそらくツキの家にある。だから、落ち着け」


マイキーが青年を刺激しないよう優しく語りかけた。


「早く、取りに戻らないと…」


シラキが部屋の扉を開け、千鳥足で前に進んでいく。



部屋から出た先、古びた城の廊下にはあちらこちらに人の骨のようなものが落ちており、あたりには獣臭のような臭いが漂っていた。


地面に敷き詰められた煉瓦には亀裂が入っており、城の壁にも同じような亀裂が入っている。


目と鼻の先にある中庭には誰もおらず、枯れた草木がうなだれていた。


自分のいる場所が魔王の城の内部だということがわかり、シラキが嗚咽をもらす。


「っ…、こっ、ここに…黒崎が…いる…」


息が詰まりそうな恐怖にかられ、シラキがその場にうずくまる。


マイキーは中庭でひとりうずくまる青年に歩み寄り、シラキの背中をやさしく撫でた。


「シラキ。俺は、山本春と賢者を探す。お前は俺が戻ってくるまで安全な場所に身を隠すんだ。いいな?」


男の言葉にシラキが首を横に振る。


「転生前の自分みたいに何もできないまま後悔するなんて、そんなの…

もう嫌だ…」


「……」


立ち上がろうとするシラキの体を支え、マイキーが足を進める。


「マイキーさん…」


「正気を失いそうになったその時は、俺の血を飲め」


「そんな…」


シラキがうつむき、拳を握りしめる。


「生きている人の血を飲むなんて、そんなことしたくない」


「なら、自分を見失うな」


「……」


シラキが金髪男を見つめ、男の姿と現世で出会った警察官の姿を重ね合わせる。


臆することなく黒崎に立ち向かったあの男なら黒崎の暴走を止められる、そうシラキは思った。


「行くぞ」


マイキーがシラキの肩を軽く叩き、前へと足を進めていく。


シラキは恐怖を振りほどくように気を引き締め、マイキーの後に続いた。


不気味な中庭を後にした二人は階段を下り、地下へと足を進めていく。


ハルと賢者を探すため、地下の廊下にある部屋の中を確認するも、どこにも二人の姿はない。


廊下の一番奥、拷問部屋のような部屋を見つけ、マイキーが口を開く。


「ここは一体…なんなんだ?」


薄暗い部屋の中央には電気椅子のようなものが置かれており、

手足を縛るためのベルトは切れているように見えた。


血がべっとりと付着した拘束ベルト。


そのベルトから滴り落ちていく血を見るやいなや、シラキがそれを手に取り、口元へと運んでいく。


「シラキ…、大丈夫か?」


マイキーが心配そうに青年に歩み寄る。


「マイキーさん…」


シラキが口元にこびりついた血を手で拭い、話を続ける。


「僕、今…、初めて人の血を飲んでわかりました」


「何がわかったんだ?」


「黒崎がどうして山本春をいじめていたのか、理由がわかりました」





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