第27話 ロストタウン

人で賑わう街、ロストタウン。


今は夜だということもあり、 人通りは少なく、がらんとしている。


昼間は賑わっているであろう 売店も閉まっており、

マイキーたちは 途方に暮れていた。


「大丈夫か?セレナ」 マイキーがセレナに声を掛ける。


「すみません…。少し、疲れました…」


セレナが額に汗を滲ませ言った。


そんな彼女を見て、キャロラインが 呟く。


「ずっと魔法を使ってたら、そうなるに決まってる…」


「セレナ、偽の勇者たちはこの街のどこかにいるんだよね?」


シラキがセレナに尋ねた。


セレナは小さく頷き、額の汗を拭う。


体調が悪そうなセレナを見て、ビッグマンが口を開く。


「宿屋に行けば休めるし、店主から情報も聞けるんじゃないか?」


「なら、そうしましょう!」


メルシーがビッグマンの腕にしがみつき言った。


「ちょっ、やめろ」


ビッグマンがメルシーの手を振り払おうとするも、紫髪の女性は気にすることなく、 男の腕に手を絡ませていく。


大男は抵抗するのを諦め、ため息をついた。


静かすぎる街の中。 マイキーがセレナ達の方を見て言う。


「俺はもうちょっと街を歩いてから、宿屋に行くよ」


「勇者様。それなら私も一緒に行きます!」


キャロラインが手を挙げ言った。


「いや、大丈夫だ。お前は皆と一緒に宿舎に向かってくれ。

セレナのこと、頼んだぞ…」


マイキーが背を向け、街の中へと消えていく。


追いかければ彼に嫌われてしまうかもしれない。

そう思い、キャロラインは追うのをやめた。


「行こう」


シラキがキャロラインの手を取る。


「行きましょう!」


メルシーがビッグマンの腕をひっぱり、足早に宿屋の方へと歩いていく。


足取りがおぼつかないセレナは、キャロラインとシラキに抱えられ、

宿屋に向かうのだった。




真夜中の売店はどこも閉まっており、明かりすら点いていない。


街灯が照らし出す一本道を歩き、 マイキーがつぶやく。


「これ以上、セレナに負担はかけられない…」


偽の勇者とキッドがどこか遠くへ行ってしまう前に、二人を捕まえなければいけないとマイキーは思う。


ふと、前を見ると前方に小さな店が見えた。


店には明かりが灯っており、まだ営業しているようだった。


「あっ!お客さん!こっちこっち!」


アクセサリー屋の店主のツキがマイキーに向かって手招きしている。


茶色いモンスターは眉をひそめながら、ツキの方へと足を進めた。


「あんた、この店の店主か?」


マイキーがアクセサリーショップを指さし尋ねた。


金髪少女が頷き、「そうだよ。何か買ってく?」

と腰に手を当て言った。


少女が身に纏っていいる学生服のような衣装をマイキーがまじまじと見つめる。


この世界の物とは思えないデザイン。


彼女の服は、現代の学生服によく似ていた。


「その服、どこで手に入れたんだ?」


マイキーがツキ訊ねた。


「あぁ、これ?私が作ったの」


「作った?」


「うん!」


もしかしたら、彼女も現代から来た転生者なのかもしれない。

そう思い、マイキーが口を開く。


「あんた…、転生者か?」


「転生者って?」


「転生者っていうのは、日本ってところから、この世界に転生した人のことだ。

あんたが作ったって言ってるその服…、日本の学生服にそっくりなんだ。

だから、そうなのかなって思ったんだけど、違うのか?」


「ごめん。私、昔のことあんまり覚えてなくて…」


申し訳なさそうに、ツキが頭を掻き言った。


少しの沈黙。


思い出したかのようにマイキーが ツキに尋ねる。


「なぁ、もう1つ訊いていいか?」


「いいよ、なに?」


「長い金髪の男と赤い髪の女性を探しているんだが、何か心当たりはないか?」


「んー、長い金髪のイケメンなら、今日の朝くらいに店に来たけど…」


「そいつだ!そいつは今どこにいる!?」


マイキーがツキに詰め寄る。


少女は困惑しながらも

「知らない。だけど、ちょっと待ってて」

と言い、店の奥へと入っていった。


しばらくして、ツキが店の入り口に戻ってくる。


「これ、君が探してる男の髪の毛」


少女が小さな瓶をマイキーに手渡す。


瓶の中には黄金に輝く髪の毛が一本入っており、マイキーはそれをまじまじと見つめる。


「これ…、あいつの髪の毛か?どうして、こんなもの持ってるんだ?」


「えーとねぇ、ハルが店に来た時、バラの指輪が欲しいって言ってたんだけど、お金が足りなくてー、それで、お金の代わりに彼の髪の毛を一本貰ったの」


「ハル?それが奴の名前なのか?」


「うん。そう名乗ってた」


「山本春…」


背後から声が聞こえ、マイキーが振り返る。


「!お前…、どうしてここに…」


マイキーの視線の先、シラキが腕を組みながら立っている。


「あなたが心配だからあとをつけてほしいって、キャロラインに頼まれたんだ。

悪いけど会話は全部、聞かせてもらったよ」


「そうか…まぁいい。それより、山本春って?それが奴の本名なのか?」


「うん。あくまで憶測にすぎないけど、偽の勇者は転生者で、黒崎って生徒にいじめられてた男子学生…、山本春の可能性が高い」


答えにくそうにシラキが口に手を当て言った。


二人のやり取りを黙って見ていたツキが腰に手を当てシラキに尋ねる。


「あなたも彼と同じ転生者かなにか?」


「うん…そうだよ」


シラキが頷き、ツキの方へと歩み寄る。


「!その白い牙…」


シラキの口元を見て、ツキが言った。


マイキーがシラキの肩に飛び乗り

「彼は人間と吸血鬼のハーフだ」

とツキに説明する。


ツキはほっと胸をなでおろし、 話を進める。


「この世界に転生する前、 二人は何者だったの?」


少女の質問にシラキが口を歪める。


「僕は山本春をいじめていた黒崎の友人…、いや、操り人形というべきか…」


「お前…。まさか、あの時、俺の腹を蹴った男子生徒か?」


空き地であった出来事を頭に思い浮かべ、マイキーがシラキの顔を見る。


敵意はないとでもいうようにシラキが口を開く。


「僕はただ傍観してただけです。あなたの腹を蹴ったのは別の男子生徒で僕じゃない。 彼は黒崎に心酔してた。だから、警察官のあなたにあんなひどいことを…」


「・・・・」


シラキの言葉にマイキーが黙り込む。


白髪の青年は黒崎を恐れているのだろう、シラキの瞳には涙がにじんでいるように見える。


「んー、なんかよく分かんないけど、とりあえず、先にハルに会って話せばいいんじゃない?」


ツキが金色に輝くツインテールをなびかせ言った。


「これで、どうやって探すんだ?」


マイキーが瓶を両手で持ち訊ねた。


得意気な顔でツキがにやりと笑う。


「その瓶の中にある髪の毛には特別な呪いがかかってる。その呪いが解けない限り、 髪の毛は本人の元へと向かう。君はただ瓶を持ってその髪の毛が示す方向へ進めばいいだけ」


小瓶の中に入っている金色の髪の毛がマイキーの後ろを指し示す。


「なるほど。こっちか…」


マイキーが瓶を片手に足を進めていく。


シラキが茶色いモンスターの後を追おうとしたその時、

ツキが青年の腕をつかんだ。


「あの小瓶の代金、払わないつもり?」


ツキの言葉にシラキが頭を抱える。


「これでいい?」


自身の白い髪を一本取り、シラキがツキに手渡す。


少女は不満げに首を振り

「吸血鬼の髪の毛なんていらない」

と頬を膨らませる。


「そう…」


シラキが眉をひそめ、抜いた髪の毛を地面に落とした。


青年の 白い髪の毛はその場に留まる事無く、風に飛ばされ灰のようにサラサラと消えていく。


「あなたは人間のフリをした吸血鬼…。今も人間の血が飲みたくて仕方ない…

違う?」


ツキがシラキの顔を覗き込み言った。


ごくりと息を呑み、シラキが少女から距離をとる。


震える体を押さえ、青年が口を開く。


「僕は人間だ。君と同じ人間なんだ。 それなのに、どうして…」


沈黙。


張りつめた空気が漂う中、ツキがシラキに背を向け、店の中へと入っていった。


「…どうすればいいんだ」


シラキが頭を抱え唸る。


しばらくして用事が終わったのか、少女が店から出てきた。


「まだいたんだ…。あ、そうだ、名前。まだ聞いてなかったよね?」


店の扉を閉め、ツキが言った。


「シラキだ…。そっちは?」


「私はツキ。私達の真上にある、あの月と同じ名前だよ」


ツキが空に浮かんでいる満月を指差した。


「いい名前だね。君にあってる」


「ひたすら私を誉めて、代金を払わない作戦?」


青年の方を見て、ツキがイタズラっぽく笑った。


「っ…」


人の血に飢えているのだろう。

額に汗を滲ませたシラキがその場にしゃがみ込み、

苦しそうに汗を拭う。


「ツキ、ごめん…。お代は後でちゃんと払うから…、今日は見逃してほしい」


「・・・・」


白髪の青年の前に立ち、ツキが地面にしゃがみ込む。


そのままシラキの頬に両手を当て、少女が言った。


「お代はいらない。その代わりに、私と一緒に来て…」



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