第20話 新しい仲間

すっかり日が沈んだ真夜中。


月明りが夜空を照らし、

小さな星の光が雲の隙間から顔を出しては消えていく。


ビッグマンの自宅の一室でマイキ―とセレナが

身支度を始めた。


白いベッドの横、セレナが寝間着から

綺麗に洗濯された私服に腕を通していく。


その間、マイキ―はうつむき考え込んでいた。


偽の勇者が魔王を追っているのかどうかわからない今、

自分達はどこに向かうべきなのか…。


偽の勇者を追う手がかりが何もない以上、

近くの町の人に聞いて回るしかないとマイキーは思う。


その道中、セレナが危ない目にあってしまう可能性は0じゃない。


マイキ―は頭を抱え込み、言った。


「なぁ、セレナ・・・」


「なんですか?マイキ―さん」


「君は俺と違って、この村から追い出されることはないだろう。

だから、君はここに残った方がいいと思う・・・」


「足手まといになるから・・・ですか?」


セレナが声を震わせ訊ねた。


今にも泣き出しそうなセレナを見て、マイキ―が口を固く結んだ。


長い沈黙の中、先に口を開いたのはセレナだった。


「これから、本物のうんこさん達を追うのでしょう?」


「あぁ・・・。居場所わからないから、

とりあえず、近くの町の人に話を聞きにいく」


マイキ―はセレナと二人きりの時に、一連の出来事を彼女に話していた。

それは、果たして良い事だったのか、今となってはわからないとマイキ―は思う。


「私の魔法なら、彼の居場所を突き止めることができるかもしれません」


「!!」


マイキ―が驚いた顔でセレナを見た。

白髪の美女は強い意志を瞳に宿しているように見える。


その瞳をじっと見つめ、心配そうな顔でマイキ―が言う。


「君の体に負担がかかる強い魔法なら、使わない方がいい。

俺は一人でも奴を探せる。だから、無理しないでくれ」


「無理をしてでも、あなたを助けたいんです!」


「えっ?」


月の光が照らす部屋の中、セレナがマイキ―の体を抱き寄せ、

「お願い。私も連れて行って・・・」

とつぶやいた。


「・・・・・・・」


口を閉じ、しばらく考えこんだ後、マイキ―が口を開く。


「わかった・・・。だけど、約束してほしい。

体調が悪くなった時は無理せず、ちゃんと俺に言ってくれ」


「はい、約束します」


セレナが頷いたのを確認し、マイキ―がセレナの腕の中から

床へと飛び降りた。


そのまま二人は部屋から出て、

2階から1階へと続く階段を下りて行った。


「よう。こんな夜中に出発するのか?」


こじんまりとしたリビング。

木製のテーブルの椅子に腰掛けていたビッグマンが二人に声をかけた。


テーブルの上には、ビッグマンの荷物であろう大きなリュックが置かれている。


ローリエと3人の子供たちは寝室で寝ているのだろう、

リビングにはビッグマンしかいないようだった。


セレナがビッグマンの方へ歩み寄り、

深くお辞儀をした。


「ビッグマンさん・・・、色々と助けていただき、ありがとうございました。

ローリエさんやお子さん達にも、そうお伝えください」


「・・・・・・・」


何か言いたい事があるのだろう、ビッグマンが顎に手を当てながら

口角を下げた。


考え込む大男の目の前、

マイキ―がテーブルにのぼり、彼に深々とお辞儀をする。


「俺からも礼を言わせてくれ・・・。

助けてくれて、本当にありがとう。

ローリエさんも子供たちも・・・少しの間だけだったけど、

俺達を受け入れてくれて、本当に感謝してる・・・」


ローリエ達にも直接お礼を言いたいとマイキ―は思っていた。

それでも、夜中に出発するのは、

他の村人たちに存在を知られてしまうのを避ける為だった。


ビッグマンが椅子から立ち上がり、リュックを背負った。


「俺も行く」


「えっ!?」


マイキ―とセレナが声を合わせて言った。


「もうローリエ達には話してある。

あんた達が寝ている間に、俺は決めてたんだ。

あんた達と一緒に行くって」


ビッグマンが鼻で息をはきながら言った。


テーブルから降りたマイキ―がビッグマンの足元で慌てふためく。


「ちょっと待て。あんたを危険にさらす訳には・・・」


ビッグマンが片手でマイキ―を持ち上げ、

「言っただろう。俺はあんたを元の姿に戻してやるって、もう忘れたのか?」

と口角を上げ言った。


マイキ―は男の手から離れ、テーブルの上に飛び乗り口を開く。


「・・・ありがとう」


「ビッグマンさん・・・、すごく頼もしいです!

これから、よろしくお願いします!」


セレナが目を輝かせて、男にぺこぺこと頭を下げる。


「あぁ!こちらこそ、よろしくな!って、

まずい、大きな声を出しちまった・・・」


ビッグマンが片手で口を押さえながら、

玄関の扉を開けた。


「行くぞ」


ビッグマンの小声の号令と共に、

マイキ―とセレナが外へ出た。


やがて、静かに扉が閉まり、

マイキ―が深く深呼吸をする。


3人の頭上、

闇に覆われた空の向こうには、月明りが見える。


マイキ―はセレナとビッグマンを交互に見てうなずき言った。


「行こう」


月明りに見守られながら、

マイキ―達は寝静まった村を後にした。



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