第19話 異世界転生した警察官の正体
「綾香・・・!」
本田がつぶやき、パトカーから降りる。
男はそのまま視線を悲鳴の方へ向け、その方向へと向かっていった。
人が滅多に通らないであろう道路沿いの空き地に辿りつき、
本田が息を切らしながら叫んだ。
「お前たち、何をしてるんだ!」
本田の視線の先。
暴行を受けていたであろう男子生徒が一人、顔面傷だらけの状態で地面に倒れていた。
その男子生徒を囲う様にして、茶色い髪の青年、白い髪の青年、いじめの主犯であろう黒い長髪の青年が立っていた。
その黒髪の青年に肩を抱かれるように、綾香が震えながら立ち尽くしている。
全員、綾香と同じ学校の生徒なのだろう、彼女と同じ紋章が入った学生服を身に纏っていた。
「彼女を離せっ・・・!」
黒髪の青年に向かって、本田が声を震わせながら言った。
自分よりも年下で、綾香と同い年であろう黒髪の青年に対して本田は恐怖心を抱かずにはいられなかった。
それほどまでに青年の眼光はするどく、一瞬でも気を抜けば殺されかねない、
そんな雰囲気を漂わせていた。
「おまわりさ~ん。あんた、名前は~?」
警察官に動じる様子もなく、黒髪の青年が言った。
「本田だ。それより・・・、その子から手を離せ」
本田が綾香に視線を移す。
黒髪の青年に肩を抱かれた綾香は目に涙を溜めながら、
目の前の警察官に助けを求めるよう口をぱくぱくと動かした。
恐怖のあまり声が出せなくなってしまった少女を見て、
本田が怒りに震える。
そのまま怒りをぶつけるように、
本田が黒髪の青年の肩をつかんだ。
「てめぇ!!!!」
白髪の青年が二人の間に割り込み、本田の頬を殴った。
本田はその場に倒れ込むも、すぐに立ち上がろうとする。
「ぐはっ・・・・」
腹のみぞおちに激痛が走り、堪えきれず本田が嗚咽をもらした。
白髪の青年が
「くたばれ!てめぇ、黒崎さんに逆らうなんて、身の程を知れっ!」
そう叫びながら本田の腹を蹴り上げていく。
「本田さ・・・んっ・・・・・」
綾香が言葉を言い終わる前に、黒崎が少女の口を自身の唇でふさいだ。
「やめろおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
口から血を流し本田が叫ぶ。
その声は大型トラックのクラクションによってかき消された。
_____はっと、茶色いモンスターが目を覚まし、ベッドの上で息を荒げる。
こじんまりとした部屋の中には、マイキ―とセレナの姿しかない。
ログハウスのような家の寝室。
その部屋の壁には、家族写真なのだろう、
ビックマンとその家族の写真が飾られていた。
部屋の中には温かみのある木製の家具が置かれており、
白いカーテンの向こう、小さな窓からは星空が見えた。
白いベッドの上、茶色いモンスターを抱きかかえるようにして、
セレナがスヤスヤと寝息をたてている。
雨に濡れた二人はビッグマンに案内された温泉に入り、
その後はローリエの美味しい手料理をごちそうになり、
今は寄り添うようにベッドに横たわっていた。
セレナの腕の中、マイキ―がつぶやく。
「綾香も・・・この世界にいるのか・・・?」
大型トラックのクラクションが鳴ったあの瞬間、
マイキ―の体は吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。
かつて警察官だった男は、
イケメン勇者としてこの世界に転生していたのだった。
自分と同じように、綾香や他の男子生徒達もこの世界に転生し、
黒崎は冷酷で非道な悪事を繰り返していると言われている「魔王」に
転生したのかもしれない。
あの青年であれば、ここがどんな世界であっても、
するどい眼光で人々を支配するに違いないとマイキ―は思う。
仮に黒崎が魔王だとして、転生する前の記憶が残っていたなら、
また綾香を狙うに違いない。
それだけじゃなく、いじめを受けていた男子生徒も彼に何かされるのではないかと、マイキ―は不安を募らせていく。
不安はそれにとどまらず、偽の勇者と行動を共にしている
キャロライン、メルシー、キッドのことも気がかりだった。
セレナが橋から落とされた以上、
偽の勇者がどのような行動をとるのか、元警察官は心配でならなかった。
マイキ―の不安を拭い去るように、セレナが彼の頬を撫でた。
「マイキ―さん、大丈夫ですか?」
ベッドの上、セレナがマイキ―に訊ねた。
心の底に溜まっていく不安を彼女に悟られないよう、マイキ―が言った。
「平気だよ、セレナ」
窓から差し込む月明りに照らされたセレナは凄く綺麗だと
マイキ―は思った。
遠くの方でフクロウの鳴き声が聞こえた。
夜はまだ長い。
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