第17話 異世界転生した青年

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


深い森の中、キャロラインが両手で顔を覆いながら叫んだ。


華奢な青年の姿になってしまった少女。


水たまりに映し出されていた黒髪の青年は間違いなく自分なのだと、

キャロラインは確信する。


雨に濡れた白髪の青年がキャロラインに尋ねた。


「大丈夫~?一体なにがあったんだい?」


危機感の無い声にイライラを募らせながら、

キャロラインが事の経緯を青年に話した。


「なるほど~。ってことは、君はもともと女の子で、仲間の黒魔術師の魔術で

男に変えられたってことか~。そりゃあ、災難だったね~」


青年が他人事のように言った。


「災難どころじゃない!こんなんじゃ、勇者様に告白できないし、

結婚することだってできない!」


キャロラインが目に涙を浮かべながら叫んだ。


「元に戻れないと決まった訳じゃない。あきらめるのは、まだ早いよ」


青年がキャロラインの肩をポンと叩く。


キャロラインは鼻を啜りながら、

「そう・・・だけど、私1人じゃ、また返り討ちにされるだけだもん」

と言った。


少しの沈黙の後、青年が頭を掻きながら言う。


「これも何かのご縁だし、僕が力になってあげるよ」


「えっ?本当!?」


青年の言葉にキャロラインが目を輝かせる。


白髪の青年はにこっと笑いながら頷き、

「ただし、1つ条件がある」

と、人差し指を立てた。


「・・・なに?」


「君の仲間になるにあたって、話しておきたいことがある。

それを誰にも言わないと約束してほしい」


「・・・・・・」


青年の真剣な表情に驚きながらも、キャロラインは小さく頷いた。


雨で濡れた白髪の髪をかきあげ、青年が口を開く。


「僕の名前は白木守。

こことは別の場所、いわゆる異世界から来た・・・。

この世界ではシラキと名乗っているけれど、僕はこの世界の住人じゃない」


「異世界から来たって・・・、どういうこと?」


キャロラインが興味深そうに尋ねた。


シラキは真剣な表情を崩すことなく、話を続ける。


「僕は、この世界にはない、日本という国からここに来たんだ。

そこには高等学校という場所があって、僕はそこの生徒だった・・・」


「学校なら、この世界にもあるよ。

魔術学校っていうんだけど・・・、それと似たような感じ?」


シラキが大きく頷く。


「ここに来る前、僕は黒崎って男子生徒につかまって、

そのまま空き地に連れていかれたんだ・・・。

それで、そこにいた野田っていう男子生徒を殴るよう奴に命令された・・・」


「・・・そんな、ひどい・・・」


「黒崎は学校で問題行動を繰り返す、いわゆる不良ってやつで、

なんというか・・・凄くヤバい奴だったんだ・・・」


「そいつの命令に従ったの・・・?」


キャロラインが不安そうな声で首をかしげる。


シラキは悲痛な表情のまま首を横にふった。


「僕は黒崎の命令を無視して、殴らなかった。

その時、いじめを受けていた野田は傷だらけで地面に倒れてたんだ。

そんな彼を殴れるはずがない・・・」


「そっか・・・、そうだよね・・・。

それで、どうなったの?」


「怒った黒崎は偶然近くを通りがかった佐藤っていう女子生徒を

捕まえて、彼女の口に無理やりキスしたんだ・・・」


「っ・・・・・最低」


この世界でも、女性に対して非道な扱いをする男性は少なくない。

怒りを鎮めるようにキャロラインが唇を強くかんだ。


「僕は黒崎を止めようと奴に掴みかかった。

その時に一人の警察官が来て、一緒に黒崎を止めてくれたんだ。

警察官っていうのは、悪い奴らを捕まえてくれる人のことなんだけど、

その警察官は青い目をしてたから、よく覚えてる・・・」


「青い目!?」


勇者のコバルトブルーの瞳を思い出し、

強い口調でキャロラインがシラキに尋ねる。


「本物の勇者様も青い目をしてるの!

もしかしたら、勇者様はその警察官って人なのかも!」


「・・・その可能性はあるね。

だけど、その勇者って人がその事を覚えているかどうか・・・」


「・・・・・・」


勇者はキャロラインに自身の過去のことを話そうとしなかった。

それは、自分だけでなく、セレナ、メルシー、キッド達も同じだろうと、

少女は思う。


黙り込むキャロラインから視線を外すことなく、

シラキが口を開いた。


「警察官と一緒に黒崎を止めた時、大型の車が僕達の方へ向かって突進してきたんだ。

それで、気付いた時にはもうこの世界に飛ばされていた。

性別は変わらないけど、外見が前と全然違うから、鏡を見た時は凄く驚いたよ」


「ここに来る前のシラキはどんな感じだったの?」


興味深そうにキャロラインがシラキの顔を見つめる。


シラキの顔は整っているものの、たれ目だからなのか頼りなさそうに見えた。


「ん~、ここに来る前の僕は凄く地味だったと思う。

それこそ、こんな派手な髪色じゃなかったし・・・」


苦笑いしながら、シラキが髪の毛先をクルクルと回した。

その髪は雪のように白く、輝きを放っていた。


その輝きに見惚れているキャロラインに微笑みかけ、シラキが

「この世界には魔王と呼ばれる悪い奴がいて、

本物の勇者さんはそいつを倒すために君たちと旅をしてるんだよね?」

と、疑問を投げかけた。


その疑問にキャロラインは素早く答える。


「そうだよ。それがどうかした?」


シラキが口に手を当てながら、何やら考え込んでいる。


「どうしたの?」


キャロラインが首をかしげる中、

シラキの顔がみるみる内に青ざめていく。


「・・・・本物の勇者さんがあの時の警察官だとして、

前の世界での事を覚えていたなら、魔王を追う理由って・・・」


「・・・・・・」


キャロラインが息を飲む。


重い沈黙が流れる中、シラキが声を震わせ言った。


「魔王は・・・黒崎なのかもしれない」








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