第15話 ビッグマンの村にて

深い森を抜けた先にビッグマンの村が見えた。


小さな村には5つ小屋が並んでおり、

どれも木材で作られているようだった。


小屋の向こう側には広い畑があり、

色々な野菜が実っている。


木造のフェンスに囲まれた鶏小屋からは、

「今日はたくさん卵がある!」

「ほんとだ!これなら、大きいオムレツが作れるね!」

と、子供たちの嬉しそうな声が聞こえた。


「ローリエ、ただいま」


ビッグマンが畑で作業していた一人の女性に声をかけた。


半袖の白いシャツにジーパン姿のその女性は、

長い黒髪を1つにまとめており、年齢は30代半ばくらいで、

肝っ玉母さんという呼び名がつきそうな風貌をしていた。


ビッグマンの嫁であろうその女性が驚いた声で

「全身びしょびしょじゃない。一体、何があったの?」

と、ビッグマンに尋ねた。


ビッグマンは申し訳なさそうに頭をかきながら

「いや、それが・・・色々あってだな・・・」

と、言葉を濁らせる。


「色々って、何よ?」

ローリエが前髪を掻き上げながら言った。


ふと、ビッグマンが視線を森の方へと移し、

木の陰からこちらを見ていたセレナの方を見る。


「川で溺れていたあの子を助けてたんだ」


ビッグマンと同様、全身びしょ濡れの女性が

ローリエの方を見ながら小さくお辞儀をした。


ローリエが駆け足でセレナに駆け寄り、

そっと彼女の肩をつかんだ。


「こんなにびしょ濡れになって・・・。

風邪を引く前に私の家にいらっしゃい」


セレナがこくりと頷き、

「ありがとうございます」

と、感謝の言葉を口にする。


ローリエがセレナを自宅の小屋へと連れて行こうとした

その時、二人の方を見ていた子供たちが叫んだ。


「母ちゃん!草むらに何かいる!」


雑草の陰に隠れていたうんこがびくっと体を震わせ、

ビッグマンの方へとかけよった。


「父ちゃん!モンスターだよ!逃げて!」


子供たちがうんこを追いかけながら叫ぶ。


ビッグマンは茶色いモンスターを抱きかかえ、

「大丈夫だ。彼はモンスターじゃない。人間だよ。

訳あってモンスターと中身が入れ替わってしまったんだ」

と、子供たちに事情を説明した。


父親の言葉に納得ができないのか、

幼い3人の少年たちは口々に口論をし始める。


「父ちゃんは騙されてる、あいつはモンスターだよ」

「でも、あんなモンスター見た事ないよ?」

「どちらにしろ、汚いから追い出そうぜ」


「お前たち、見た目で判断するんじゃない!」


ビッグマンが子供たちを注意する。


反省しているのだろう、

3人の子供たちはしょぼくれながら鶏小屋へと戻っていった。


「ビッグマンさん。彼は私が・・・」


セレナがビッグマンの方にかけより、

男の腕に抱えられた茶色いモンスターに手を伸ばす。


今の自分が人間ではないという事を思い知った

マイキ―が口を開いた。


「セレナ・・・。

今の俺はモンスターだから、家の中に入る訳にはいかない。

他の村人達を不安にさせたくないんだ・・・」


セレナがすっと腕を下ろし、悲しそうな顔でうつむいた。


「あんた達、名前は?」


ローリエが3人の方に歩みより、明るく話しかけた。


マイキ―はすっと顔を上げ、ローリエに自己紹介する。


「俺は、ゴールデン・マイキ―、

仲間達には勇者って呼ばれてた」


「私はセレナです。あなたは?」


セレナが首をかしげながら尋ねた。


「私はローリエ。ビッグマンの嫁で、さっきの子供たちの母親。

他の皆は狩りに出かけてるから、今、この村には私達しかいない。

だから、遠慮しないでゆっくりしていきなさい。わかった?」


「っ・・・・・」


ローリエの優しい言葉にうんこが言葉をつまらせる。


モンスターになってしまった自分。

記憶喪失になってしまったセレナ。


偽物の自分に襲われ、

キャロライン、メルシー、キッドも

セレナと同じように、これから辛い目に合うかもしれない。


抱えきれない感情が込み上げ、マイキ―の瞳に涙がにじんでいく。


それを見たビッグマンがマイキ―を励ますように言った。


「大丈夫、俺達はあんたの味方だ。

あんたが元の姿に戻れる方法、何とか見つけてやるから、心配するな」


「ありがとう・・・。本当に、ありがとう・・・」


マイキ―が言葉をしぼり出し、感謝の言葉を口にした。


暖かい日差しの中、3人はローリエに連れられ、

ビッグマンの自宅へと向かっていくのだった。






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