第8話 違和感

草が生い茂った森の中。

朝を知らせるかのように、小鳥のさえずりが聞こえる。


暖かい日差しが木漏れ日のように、

勇者達を優しく包み込んでいく。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」


一晩中歩いていたからなのか、キャロラインの呼吸は荒く、

ひどく疲れているように見える。


キャロラインだけでなく、メルシー、キッド、セレナ達も同様、

顔に疲れが出ていた。


「ねぇ、勇者様・・・。少し休もう。

今日中には村につくと思うし、みんな疲れてるよ」


先頭を歩いている勇者に向かって、キッドが声をかけた。


勇者はぴたっと立ち止まり、ゆっくりと振り向きながら

「あっちの方に洞窟が見える。そこで休もう」

と言った。


目の前にいるのが勇者ではなく、

うんこだという事に4人は気付いていないのか、

男の言葉にほっと胸を撫で下ろす。


勇者は長い髪をキラキラとなびかせながら、

軽快な足取りで洞窟の方へと足を進めていった。


「何だか今日の勇者様、いつもより

やる気に満ち溢れていて・・・かっこいい」


キッドが嬉しそうにつぶやいた。


「そうね~、いつもだったら、すぐに息切れして

休憩しようって真っ先に言いだすのに、心境の変化でもあったのかしら」


メルシーが頬に手をあてながら、キッドの意見に同調する。


「私が危ない目にあったから、もっと強くならなきゃって思ってるのかも・・・」


キャロラインが頬を赤らめながら言う。


セレナは何も言わず、ただ真っ直ぐ勇者の方を見た。


「・・・・・・・・」


「どうしたの?セレナ、大丈夫?」


キッドが優しくセレナに声をかける。


赤い短髪。一見すると気が強そうに見えるキッドという女性は、

本当は誰よりも心が繊細で優しいことをセレナは知っていた。


「キッドさん。私は、平気です・・・。それより、早く行かないと・・・」


「あっ!勇者様!もうあんなところに・・・・」


勇者は一足先に洞窟についたようで、

こっちだと言わんばかりに、4人に向かって大きく手を振っている。


メルシーとキャロラインは競争をしているのか、

猛ダッシュで勇者の方へと向かっていった。


「セレナ、勇者様が崖から落ちたって話・・・。

さっき聞いたけど、あのうんこってモンスター、

また私達を追ってきたりしないよね?」


キッドが不安そうな顔でセレナに耳打ちをする。


「分かりません・・・。ただ・・・」


「ただ・・・?」


「私・・・、何だかすごく違和感を感じてて・・・」


「違和感?」


「はい・・・」


セレナはキッドの目を見て、話を続ける。


「何だか勇者様が勇者様でないような・・・。そんな違和感があるんです」


「なに言ってんのさ。あれは、どこからどうみても勇者様じゃん」


キッドが洞窟の方に目を向け、勇者に向かって手を振る。


勇者はそれに気付いたのか、腕を軽く組み、

「何してるんだ?早くこい!」

と言った。


「セレナ、きっと気のせいだよ。

勇者様だって人間なんだし、気分がコロコロ変わるのも不思議じゃない。

細かいこと気にしてたら身が持たないよ?」


キッドがセレナの背後に立ち、

ゆっくりと彼女を前へ押し出していく。


「わっ・・・・!キッドさん。私、1人で歩けますっ」


「いいから、いいから~」


セレナはキッドの力に逆らえず、前へ前へと足を進めた。



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