23「月乃ウルフ」

「ほな、約束どおり3話一挙公開してぇな」


「何が約束やねん、まったく……」


 配信終了後、千代子にせがまれて、『明治千代子(の拳)は斯く語り』の201話から203話までを一気に公開し、Twitterにて『最新話公開しました! どうぞ御覧じあれ!』とツイートした。


「うひひ」


 気味悪い笑い声を上げながら、千代子がトイレの方へと消えていく。


 PVはとんでもないことになっていた。

 本日のPV、74,163。

 なんてこったい、日間ランキング1位。

 これ、どんな金額に化けるんだろう……?

 マジで、この小説一本で食べていけるかも知れない。


 204話目以降の校正をしていると、201話に感想が付いてることに気付いた。


 エピソード内容や千代子のセリフを引用しての、ものすごく具体的かつほめ殺しな感想を付けてくれたのは、『月之つきのウルフ』さん。ずっと僕のコアなファンでいてくれてる読み専の人。

 僕とウルフさんとは、感想をもらい、そのお礼を返すだけの関係で、顔も声も性別も年齢も知らないけれど、控えめに言って人生の支えってくらいに大事な人だ。

 ウルフさんがいなければ、ここまで続けられていなかった可能性が高い。


 そう。

 毎日毎日『0 PV』の文字を睨みつけ、精神崩壊寸前だったある日、ぽっと灯った『1 PV』の文字。

 ほどなくしてカクヨムの通知が点投し、ウルフさんからの感想が届いた。

 あの時の感動は、震えるほどの感激は、きっと生涯忘れることはないだろう。


 ウルフさんは解釈違いなところは鋭く切り込んでくるし、時代考証が誤っているところを指摘してくれたりもする。

 それがまた、一層嬉しいんだ。

 感想を読んでいるうちに、202話、203話にもウルフさんが感想を付けてくれた。

 良かった。今回はダメ出しなしだ――千代子が一緒に見てくれたおかげだな。


「何ニヤニヤしてんねん」


 トイレから戻ってきた千代子の声。


「してへんわ」


「しとる」


「以前からずっと感想くれてる人がおってな」


「ふぅん? めっちゃ嬉しそうな顔しとる」


「まぁ、僕にとっては支えみたいなもんやったからなぁ」


?」


 ふと、千代子が寂しそうな顔をする。


「いや、今でも支えなんやけど、今はこう、何というか目の前にいる千代子の存在の方が大きくて」


 ……何しろ、胸の中でオギャってしまった相手である。あぁ、恥ずかしい。


「なるほどな!」千代子が満足げに笑う。「ほら、ラ〇フ行くで。晩メシ用の惣菜も買わなアカン」


「今日は僕が出すわ」


「どしたん急に」


「ほら、このPV。何もかも全部、千代子のおかげや!」


 千代子が得意げに微笑む。


「感謝の気持ちは文章に変えるんやで。メシ終わったら3万字のセッションや」


「……お手柔らかに」





   🍼   💝   🍼   💝





 僕は完全復活した、と言ったな。

 あれはウソだ。


 夜。

 やはり僕は、悪夢で目覚めた。

 すると、すぐに千代子がベッドの2段目に上ってきて、生心音ASMRをしてくれた。

 僕はずぶずぶと千代子沼にハマっていく。千代子なしでは生きられなくなる。


 朝、目覚めれば千代子がいる。

 オギャりたいときにオギャらせてくれる。

 ここは天国か。

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