22「コンブママ、爆★誕」

「じゃ次の質問――ででん」


 千代子の、リスナーからの質問に答える配信が続いている。

 質問の内容は、


『作者とのカンケーは?』


「ウチが一方的にファンやねん。ガチファン。1年と数ヵ月くらい前からやったかな。面白いから旦那様たちも原作読んでみて! この後、3話一挙公開してくれるらしいで」


 言いつつニヤニヤ笑い、横目で僕を見る千代子。

 僕は自身のPCの前に戻り、タイピング音がならないように気を付けながら


『はぁ!? 聞いてませんよ!?』


 とコメントする。

 数秒後、千代子の配信画面上に『コンブ:はぁ!? 聞いてませんよ!?』とのコメントが流れる。


「あ、コンブママ見っけ。スパナ渡したろ」


 千代子の流れるような手さばきで、僕の『コンブ』アカウントが千代子の特別なリスナーモデレーターになってしまった。

 半年間悶々と願い続けてきた念願も、叶う瞬間はあっけないもんだね。


『え? 原作者?』

『本物?』

『マジで?』

『あー見覚えあるわこの昆布アイコン』

『あっキミかぁ』


 古参の千代子ファンから、早くも特定される僕。

 まぁ僕は、早朝だろうが深夜だろうが欠かさず必ずお邪魔して、何らかのコメントを残してきたガチガチのガチファンだもの。

 いくらチャンネル登録者数20万人とは言っても、コメントを残すようなコアなファンってのは限られてるし、ガチファンたちとはそれこそ千代子がチャンネル登録者数百人のころからの付き合いだ。

 かく言う僕も、名前とアイコンを見れば、『あっキミかぁ』となるリスナーが何人もいる。


『コンブ!』

『コンブママ!』

『ママァ!』

『コンブママ、爆★誕』


 お、おおお……コンブママが爆誕してしまった。


「推しが所望しとんねん。つべこべ言わず3話一気に公開せぇや」


『コンブ:無茶言わんでください』


「あとで特別に金玉踏み潰したるから」


『コンブ:アッアッアッ』


「ん? 今何でもするって言ったよね」


『コンブ:言うとりません!』


 僕と千代子との茶番、じゃれあい、殴り合いが繰り広げられる。

 それを見ていたリスナーたちが、


『草』

『金玉握られてて草』

『コンブママも千代子に金玉管理されているのか……』

『ママなのに金玉ついてるの?』


 ちなみに『ママ』というのは主にVTuberのバ美肉(ガワ)のイラストを描いたイラストレーターに対して使われる言葉だ。

 そのイラストレーターが男性だった場合、『パパ』という表現が使われることがあるものの、男性でも『ママ』呼びされるケースが多い。

 その逆――女性イラストレーターが『パパ』呼びされることはない。


 なぜ、Vやリスナーは生みの親のことをママ呼びしたがるのか?

 そこにはやはり、『人類はオギャりを求めている』という心理があるからに他ならない、と僕は思う。

 前々からそうじゃないかと思っていたんだけど、今朝ついに、それを確信した。

 千代子ママの胸の中で。


『ママっていっても男の可能性あるやろ』

『で実際どっちなんですかコンブママ?』

『おーい?』


『コンブ:も、黙秘で……』


『草』

『黙秘で草』

『絵の作風からして男だろ』

『小説の作風からして男だろうな』

『千代子のガチファンの時点で絶対男』


 バレてるし。

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