21「暴露配信」

 千代子が自転車で窓から女学校に乗り込み、教師を激怒させつつも、女生徒たちから黄色い声を浴びせかけられたところで、第いち話は終了。

 配信画面の中では、千代子がお辞儀(2Dなので目礼だけど)をして幕が下りる。


「お疲れさん」


 ほどなくして普段の立ち絵の姿に戻った千代子が後語りを始める。


「どやった? これが、これこそが元祖・明治千代子。親の金玉タコ殴りにしたり、自転車で教室に乗り込んだりとか、なっかなかに頭キマってると思わへん? 普段のウチの言動なんて可愛いもんや」


『は?』

『はぁ?』

『草』

『それはない』

『なんか言ってる』


 煽ってくるコメントと、


「あ”あ”ん”!?」


 ノータイムでキレ散らかす千代子。


『ヒエッ』

『こわい』

『怒らないで』


「さて、聞きたいこともたくさんあるやろ。順を追って説明しよか。原作関連で来とった無記名投稿マシュマ〇に答えてくわ。では1つ目――ででん!」


 画面に、『明治千代子の【原作】って何ですか?』と言う、リスナーからの質問が映し出される。


「これな」


 千代子が配信画面の中でGoogleを開き、『明治千代子(の拳)は斯く語りき』で検索する。

 するとVTuver明治千代子関連のサイトがだだだっと出てきて、下へ下へスクロールした先に、小説投稿サイト『カクヨム』リンクが姿を現す。

 彼女がそのリンクをクリックすると、果たして出てきたのは僕が投稿している小説のトップページ。


「これ。これこそが、今朝ウチがTwitterで告知した、ウチの【原作】。実は明治千代子っていう女の子は、ウチがバーチャルな体を手に入れてこの世に生まれる、その1年前から存在しとってん。つまりウチは、パクリっちゅうか、リスペクトってやつやな。

 お次の質問はコレ! ででん!」


『小説「明治千代子(の拳)は斯く語りき」を以前から知っていた者です。千代子さんはこの作品の原作者さんには許可を取ってライバー活動をなさっておいでなのですか?』


「当たり前やんかぁ、そんなん」


 ……はぁ?


「デビュー前にバ美肉とウチの声をコンブママに送付して、許可もらいましたわ」


 他ならぬ原作者ぼくの前で、いけしゃあしゃあと虚言を吐く千代子。


「じゃ次。『今まで黙っていたのはなんで?』、これな。

 デビューしたてのころはお互いに無名やったから、発表したところで互いにメリットなんてないと思てたからや。

 けど、ウチもデビューから半年経って、旦那様方のおかげでチャンネル登録者も20万人を超えて、そこそこ有名になれた思てる。あと個人的な事情として、時間のある春休みの間に新しい試みに手ぇ付けたいと思てん」


 恐らく、千代子が言っていることは事実なんだろう。

 デビューから半年。

 勢いがあり、知名度も上がってきたところでの新ネタの投下。

 千代子としてもメリットのある事なんだろう。


 けど、疑問がある。どうしようもなく大きな疑問が。


 千代子は美少女で、声が良く、話も上手く、歌も上手く、ゲームも……いや、アクションゲーは苦手だっけか。

 とにかくっ、才能も実力もある千代子と、無名の僕とではとても釣り合わないんだ。

 この話は、


 千代子はどうして、ここまで僕によくしてくれるのか?

 それが、分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る