15「バズった」

『カクヨム』の小説のPVも、とんでもないことになっていた。

 今までは、最新話をUPしても1PVしかつかないようなありさまだった。

 1年半ずーっと続けてきて、200話もUPしてようやく総PVが1,000を超えたところだったんだ。

 それが。


「今日のPV……せ、1,253!?」


 ほんの、ほんの十数分の間に、PV1,200件越え!

 F5キーを押してみると、瞬く間に1,300台、1,400台と上がっていく!!


「あぁ……ッ!!」


 世間が、僕を、見てくれている!

 僕の小説を読んでくれている!

 ずっと無視され続けてきた僕を、学校でもネット上でも居場所のなかったこの僕を、みんなが見てくれている!





   🍼   💝   🍼   💝





「出たで、神戸かんべ


 夢中で、積み上がっていくPVを見守る。

 と同時並行で、ものすごい勢いで投稿されていく感想コメントに目を通していく。


「おーい、神戸?」


 日間PVは、今や1万を超えていた。

 本当、見たこともない数字だ。


「コンブママ? お~い?」


 なんてこった。

 夢にまで見た、『バズる』ってやつだ!!


「か・ん・べッ!!」


「うわっ!?」


 いきなり耳元で大声がして、僕は飛び上がる。

 振り向いてみれば、


「ひえっ、オバケ!?」


 顔面真っ白なオバケがそこにいた。


「お化けちゃうわララランや」


「ラララ……何?」


「パックや」


 オバケの正体は、顔にパックを付けてる千代子だった。


「え、高校生にパックなんて要るん?」


「女はいろいろ大変やねん」


「ふぅん」


「で、どうなん?」


「あ、せや聞いてや千代子! ほら、僕の小説が、日間PV1万越えやで!? 嘘みたいや!」


「いや、ちゃうんやけど……まぁええか」千代子が微笑んだ、のだと思う。パックで分かりにくいけど。「良かったやないの」


「千代子のおかげや!」


「言うてVTuber明治千代子の生みの親ママは神戸なんやし、つまり2人のおかげやな」


「2人の……」


「風呂。冷めへんうちに入ってしまいぃ」


「あ、うん」


「神戸」


なんよ」


「ウチの入った残り湯で変なことすんなや?」


「せんわ、ボケ!」





   🍼   💝   🍼   💝





 ……とは言ったものの。


 ホカホカと湯気を立てる湯を眺めながら、思わず考え込んでしまう。

 お風呂エピソードはおろか、トイレに行っただけでも『ゴクゴクゴクゴク』『gkgkgkgk』と地獄のようなコメントが流れる界隈である。

 大人気VTuber明治千代子の残り湯とか、ペットボトルに詰めたら普通に売れるんじゃなかろうか。

 ……いや、やらないよ?

 バレて千代子に嫌われたら大変だし、そもそも出所はどこだってことになる。

 彼女が見ず知らず――ではないらしいのだけど――の男子の部屋に上がり込んでるってのは、どう控えめに見たって特大スキャンダルなんだから。


 見れば、浴室の棚に見慣れぬシャンプー、リンス、石鹸が増えてる。

 それらには触れないように気を付けながら、頭を洗い、体を洗い、湯船につかる。


 今日はいろいろあったなぁ……本当に。





   🍼   💝   🍼   💝





 お風呂上りには湯を抜きながらパパっと風呂掃除をする。

 ドライヤーで適当に髪を乾かしてから居間に戻ると、千代子がベッドに腰掛け、スマホを見ながらニヤニヤしてた。

 パックはもう外してた。


「どしたん?」


「神戸のTwitter、荒れとるで」


 何だって!?

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