4「タイムリミット」
❖同刻 / 有栖川 アリス❖
「「にっ!?」」
「2週間後の、木曜日」千代子様の声が震えている。「4月27日木曜日の23:59までに所定のサイトにPV動画をUPせなあかん」
「無理だ」神戸が、へなへなと座り込む。「作詞作曲の発注、振り付けの発注、歌とダンスの練習、新衣装制作、3D制作、撮影とPV編集……それをたったの2週間で? そんなの無理だ。めちゃくちゃだよ。だいたい、そのPV大会はもっと前々から応募してたんじゃないのか?」
「……それは、そう。きっと母が、ギリギリになるのを待ってから言い出したんやと思う」
「そんなの、騙し討ちじゃないか!」
「でも、神戸……」千代子様が目に涙を浮かべている。「無理でも、騙し討ちでも、優勝せな。優勝せぇへんかったら、終わってまう。ウチと神戸の、『明治千代子』が終わってまう!」
――ここだ。
「あーしに任せて!!」
あーしは勢いよく立ち上がる。
あーしを呆然と見上げる2人に向かって、安心させるべく微笑む。
「曲は、先輩の和ロックインディーズバンドに言えば、何とかしてもらえる! ストックしてる曲はたくさんあるって言ってたから、アレンジ加えるだけなら1週間くらいでできるはず! 歌の指導もやってもらえるようにあーしが頼み込む!
振り付けとダンスの指導ならあーしがやってあげられる!
新衣装と3DとPV編集は、コンブママならお手のものでしょ?」
「お、お手のものって……そもそも僕は、お前なんかと――」
あーしはスクールバッグからノートとシャーペンを取り出して、線を引く。
性格上、仕切り役を買うことが多くて、自然と身に付いたクセだ。
「スタートは今日、4月13日(木)。
ゴールは4月27日(木)の24時。
15(土)、16(日)で先輩の和ロックバンドと打ち合わせして、曲の製作依頼。
先輩たちなら次の土日までには曲を上げてくれるはず。
たくさんあるストックを修正する形になるだろうから、仮音源はすでにある。
だから4月17日週前半は、あーしも並行して振り付けを作る。
4月17日週後半からは、千代子様に振り付けの練習と歌の練習をしてもらう。
多分めちゃくちゃハードな数日間になるだろうけど、耐えて。
並行して、神戸は新衣装の作成。
22(土)と23(日)で撮影・収録。
4月24日週は神戸によるPV作成がメイン。
でも、いざ編集し始めたら足りないシーンなんて山ほど出てくるのがフツーだから、千代子様も体はしっかり空けておくこと。
――こんな感じ。
どう? 何とかなりそうでしょ?」
「すごいすごいすごい!」千代子様が目を輝かせている。「やったで、神戸! これならウチら、PV完成させられる! きっと優勝や!」
「だから、その代わり」あーしは神戸の両肩をつかむ。「あーしを仲間に入れて! コンブママのバ美肉でVデビューさせて!」
「アリスちゃんが仲間になってくれるなんて大歓迎や! な、そうやろ神戸!?」
大喜びな千代子様と、
「――――……」
顔面蒼白な、神戸。
「? 神戸、どうしたし――」
「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
急に神戸が叫び出し、あーしの手を振り払う。
そのまましゃがみこんで、頭を抱えてしまった。
「やめろ……見るな……そんな目で見るな……やめろ……やめてくれ……!!」
「――神戸?」千代子様が、神戸の頭を胸に抱く。「
「え……な、何コレ……?」
戸惑うあーしに千代子様が、
「中学時代。アンタ、コイツのことイジメとったんやろ? イジメた側にとっては過去のことでも、イジメられた側にとっては……な」
「…………」
「まぁ、今のアリスちゃんを見とる限り、昔のアリスちゃんとはもう違うんかもしれへんし、何か行き違いがあったんかもしれん。けど今は、そっとしといたり」
それは、『今日はもう帰れ』という意味だろうか。
けど、あーしは今、特大のカードを切ったところなんだ。
先輩の和ロックバンドには大きな借りを作ることになる。きっと、次のライブでは多大なチケット販売ノルマを課せられることだろう。
それに、振り付け制作・ダンス指導のためにこれから毎日、睡眠時間を削らなきゃならない。
それだけの覚悟を持って口にした提案なんだ。
今、ここで、答えが欲しい。
そう思って、あーしがなおも立ち尽くしていると、
「…………帰れよ」
神戸が、深い深い恨みのこもった声で、言った。
「帰れよ! 帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ!! 出ていけ!! 僕と千代子の城から出ていけぇッ!!!!!!!!」
「ひっ……」
その、あまりの剣幕に押されて、あーしは転がるようにして家を出る。
出てすぐに、『ガチャン!』という音とともにカギが閉められた。
「はーっ、はーっ」
その場に座り込む。
「はー……」
寒くもないのに、体の震えが止まらない。
あーしは恐怖していた。
神戸のあの目に。
――過去の自分がしでかしてしまった『事』の、重大さに。
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