5「千代子の正体」
❖同刻 /
「どちら様?」
有栖川と一緒にいるし、有栖川が信頼している様子だったから、敵ってことはないだろう。
僕は2人の男女を部屋にお招きした。
今、目の前には、その男女が正座している。
僕も正座している。有栖川も正座している。
椅子は人数分ないし、座布団なんて気の利いたものもないから、ピカピカのフローリングの上に直接。
2人とも、30歳前後くらいだろうか?
くたびれた感じのスーツ姿の男性と、ぱりっとしたパンツスーツ姿の女性。
どこにでもいそうな2人だけど、妙に背が高くてガタイがいい。
「ボディガードさんだよ!」有栖川が微笑む。「千代子様が手配してくれたの」
有栖川の説明で、納得した。
恐らくは、千代子の姉を名乗る電話の女性が手配してくれたのだろう。
それにしても、千代子といいお姉さんといい、本当に何者なんだ?
「さっそく、ご説明させていただきますね」女性の方がにこりと微笑む。
そうして僕らは、ボディガードさんから説明を受けた。
男性は僕担当、女性は有栖川担当。
2人は僕らの視界に入らない場所、かつ不審者が近付いたら急行できる距離から守ってくれるとのこと。
ボディガードにも寝食は必要だから、僕と有栖川が家や学校敷地内に引きこもる時間はあらかじめ共有しておいて、絶対に順守してほしいこと。
期限はひとまず、今日から1ヵ月。
「あの……僕、お金なんて持ってないんですけど。ボディガードって、きっと高いんですよね?」
「大丈夫!」テキパキとお茶の用意をしながら、有栖川。「千代子様の会社が出してくれるんだって」
「は!? 会社!?」
「千代子様の親御さんがやってる会社――そう、ライバーズハイ!!」
「えぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
日本VTuber業界の最大手!
千代子がサーバを借りている相手であり、PV大会の開催主でもある。
「千代子様、社長令嬢なんだって!」
『初めまして。わたくし、千代子の姉の大神です』
大神!
ライバーズハイ社社長・大神ゼウス!
千代子が、その娘だって?
分からないことだらけだ。
社長の娘なら、何で千代子は盗作まがいのことをしたんだろう?
会社を通して僕に依頼してくれれば、僕は大喜びで応じたはずだ。
社長の娘と言えども、会社のことは好きにはできないのかな? それで、千代子が姉の支援を受けながら、独自にやっていたとか。
親に内緒で
それでなくても、未成年で同棲なんて、親に内緒に決まってるか。
……いや。
僕は首を振る。
こんな思索は、もう無意味だ。
僕らはもう、会うべきではないんだ。千代子と僕の身の安全のためにも。
「とにかく」男性ボディガードさんが微笑んでくれる。頼もしい。「今日からは我々が責任を持ってお守りしますので、安心して日常生活に戻ってください。くれぐれも、事前に決めた時間帯以外は自宅や学校敷地内から出ないように」
🍼 💝 🍼 💝
有栖川が優しかった。
ご飯を炊いてくれて、お惣菜を温め直し、みそ汁まで作ってくれた。
僕は何度も吐いて、吐いて、それでもみそ汁だけは飲めた。美味しかった。
お風呂も沸かしてくれた。
「帰らなくても大丈夫なん?」
「友達ん家でお泊り会するって言ってきたから」
……まぁ、ウソではない、のかな?
僕はお風呂でしっかり温まってから、布団に入った。
けれど、寝付けなかった。眠れるはずもない。
「神戸、起きてる?」
ふと、ベッドの1階を使っている有栖川が、声をかけてきた。
ぎしり、とハシゴを踏む音がする。
「上がってもいい?」
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