4「世界全部が僕の敵」
❖同刻 /
震えながら眠った。
身を守るように布団を被り、エゴサをして、僕や千代子に対する怨嗟・怒号・悲鳴・殺害予告に震え、気を失うように眠り、目覚め、また震えた。
たったの半日で、千代子のチャンネル登録者数が5万人減った。まだまだ減り続ける。
例の盗聴動画のまとめ動画が多数UPされ、ついには、
『……エッチな神戸さん…………アッアッアッ、もっと優しく……』
『はい。こちら今、界隈を賑わしている明治千代子同棲疑惑の動画です』
画面の中で、バーチャル・ニルヴァーナさんが盗聴動画を紹介している。
『……夕飯
『うわぁ、同棲感がえぐいですね』
『はい。一緒に生活している感が出てますね』
摩耶夫人のマヤちゃんが同意する。
『動画投稿時点では、明治千代子からも、コンブママからも何の情報発信もされていません。今後の出方に注目ですね』
生きた心地がしなかった。
小説の続きを書く気にもなれず、呆然とエゴサをしているうちに夜になった。
……改めて、自分がどれだけ非常識なことをやっていたのか、思い知らされた。
どう考えたって、千代子をあの部屋に住まわせるべきじゃなかった。
2人とも未成年なんだぞ? しかも相手はバーチャルアイドルだ。
推しが押しかけてきたから。
推しが自分の推しになってくれたから。
僕はすっかり舞い上がってしまって、正常な判断ができていなかった。
……千代子は、どうなったんだろうか。
戻ってこられるんだろうか。
いや、戻ってこるべきなのか?
僕と一緒にいたら、また盗聴なり盗撮なりをされて、千代子の立場がますます悪くなるばかりなんじゃないか?
もう、会わない方がいいんじゃないか?
『コンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ねコンブ死ね』
『金返せ中古女』
『特定まだ?』
『コンブの特定早くしろよ。絶対に殺しに行ってやる』
千代子と僕のTwitterアカウントでは、僕らに対する非難が止まらない。
怖かった。ただただ怖かった。
僕らの遊び場だと思っていたネットが、急に牙を剥いてきたような感覚。
……そうなんだ。
僕にはもう、居場所がない。
冴えないリアルの日々、1年経ってもなお続く
リアルが嫌で嫌で仕方がなかった僕にとって、千代子が、コンブママとしての活動だけがすべてだった。
けど、すべであったはずのバーチャル世界すら、今やこのとおり。
僕に、居場所は、ない。
世界全部が僕の敵なんだ。
震える僕にまたも、快とも不快とも分からない眠りが襲いかかってきた。
🍼 💝 🍼 💝
――ピンポーン! ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン!
チャイムの音で目が覚めた。
のそのそとベッドから降り、カメラ付きのインターホンのスイッチを押すと、
『神戸、大丈夫!?』
青い顔をした有栖川が、画面に映った。
彼女の背後には見知らぬ2人の男女が立っている。
「…………誰?」
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