20「 初 夜 配 信 」
❖翌日、火曜日 夜 /
「畳の部屋に、敷き布団。どちらも初めてのことで、戸惑う千代子」
しっとり切ないフリーBGMの中、千代子がゆっくりと語る。
「まごついていると、旦那様が布団を敷いてくれた」
今日ばかりは、勢いのある落語調ではない。
「しおらしく正座する千代子。二人、膝を突き合わせる。着物越しに、旦那様の体温が伝わってくるかのように錯覚する。
『柿の木はあるか?』旦那様が言った。
『はっ、はい』いつもの強気はどこへやら、びくりと背筋を伸ばす千代子。『
『実はなるか?』
『な、なります!』肩が震える。
『わしが上がって
旦那様が、肩に触れた。
千代子は大きくびくりと震える。
しばらくすると、震えは止まった。
『…………はい』
抱き寄せられた」
🍼 💝 🍼 💝
――良し、良し!
ものすごい勢いで流れていくコメントたちは、おおむね好意的な内容だ。
『旦那様』は特定の人物ではなく、千代子のファンであるリスナーの『旦那様』ということにしている。
だからリスナーたちは千代子が誰かに寝取られるという感覚にはならず、むしろ自分が千代子とキャッキャウフフしている感覚になっている。
『旦那様』を具体的な名前を持つ登場人物にしなくて大正解だった。
それにしても、僕も
何かあった時のために、
「『あっ、んっ、んぅぅ……日焼けっ、しとる、足は……
唇で太腿を
『そんなことない。綺麗や』」
千代子の吐息エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッド!!
正直、むちゃくちゃムラムラしてくる。
四六時中千代子と一緒にいる
そこにきてコレは、くる。
そこからしばらく、BANされないギリギリきわっきわを狙った情事の描写が10分近く続く。
千代子は僕の推しで、僕のママだ。
けれど
どんなにエロい衣装でも着させられるし、どんなに恥ずかしいセリフでも言わせることができる。
最強だ。
素晴らしき地産地消。
……やがて情事が終わり、千代子と『旦那様』の会話パートが始まる。
「『旦那様、
旦那様の胸に顔を埋め、千代子が泣く。
『阿呆、そんなわけにはいかん』
『ほんなら生きて帰ってくるって約束して』
『旅順はこの戦の天王山や。国のために死ねるんやったら本望や』
『旦那様に死なれてもたら、ウチは……』
『……落ち着いたら、次の相手見つけてもええんやで』
『阿呆!』」
しばしの沈黙。
それから、
「『君死にたまふことなかれ』――従軍している弟が生きて帰ってくるのを祈った、与謝野晶子の歌です。
この歌が反戦主義であると批判されるような、国のために命を投げ出すことが最も尊いことだと固く信じられた時代です」
千代子はまた少し沈黙して、そこから精一杯感情を込めて、
「『旦那様、死なんとって……』
千代子は泣く。
すでに徴兵の命は下っていた。
旦那様の
たった一日で数千人の日本兵が死んだこともあると聞く。
千代子は震える。
いつから自分は、こんなにも弱くなってしまったのだろう。
今の自分は、好きな男性がいなくなってしまうかも知れないという恐怖に怯えて震える、弱くて小さな女だ」
🍼 💝 🍼 💝
最後にしんみりさせたことで、『初夜配信』とかいう頭のおかしな企画は、『何かいい話』へと昇華した。
「あー……千代子、買い出し行く前にちょっとだけ散歩行ってくるから。10分以内に戻る」
ガマンの限界だった。
リアル千代子のことをそういう目では見ないと固く固く誓っていたはずなのに、上気した千代子の首元やら胸やら脚やらに目が行ってしまって仕方がない。
「え?」千代子が、前かがみになってる僕の股間を見て、「……あっ(察し)」
「かっこ察しとか言うなや!!」
千代子が妖艶に微笑み、やおら両腕を広げて、
「何ならウチで解消してもろて。ほら、ウチらもセンシティブしようや」
「張っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ倒すぞおんどれは!!」
「きゃあっ、コンブママ怖い~」
きゃあ助かる(助からない)。
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