14「悪党どもの企み」

❖夜中 / 友柄ともがら 梅子うめこ


「…………」


 私は、英吉利犬ポメラニアンの『カメ』が上げたばかりのアーカイブ配信を慎重に聞いている。


『正直言うとウチ、今までリアル神戸に来たことなかってん!』


『『『『えっ!?』』』』


 神戸っ子で売っている明治千代子が神戸に行ったことがなかったというのには驚いた。

 上手く使えば千代子を貶めるのに使えるかもしれない。

 が、使い方を間違って自分が悪役みたいになっては本末転倒だ。


 ……それよりも、良いネタを見つけてしまったのだ。


『『『『えっ!?』』』』


 自分も含めた4人が一斉に驚くところを慎重に聞き返す。

 ……ダメだ、カメんとこのワンコの鳴き声が入っていて、私が感じた違和感がかき消されてる。

 でも、私は確かに聞いたのだ。


 千代子のマイクの向こうから聞こえる、か細い男性の声を。


 千代子のところの家族構成は知っている。両親と姉、そして千代子。

 父である大神おおかみさんの声は、もっと低くて野太い。

 ならば、聞こえた声の主は誰なのか。


「神戸への交換留学、原作者暴露配信、急に始まった原作者とのコラボ……うふふ」


 全部想像でしかない。

 が、もしこの想像が、いい具合に全て真実であったなら。


「特大スキャンダルだわ……」


 あの、千代子を。

 憎々しい邪魔者をライバー業界から追い落とすための、必殺の一手になり得る。


 明治千代子。

 個人勢と言いながら、親の力でさんざんブースト駆けてもらってる卑怯者。

『明治大正の女学生』という、私とだだ被りなバ美肉であとからデビューしてきやがって、あっという間に私のチャンネル登録者数を追い抜いてしまった憎い相手。


 そもそも、『明治大正組』は私が作ったチームだったんだ。

 なのに今や、千代子が明治大正組の看板娘みたいになっている。

 しかもあいつは今日、『舞姫ヱリス』とかいう新人を勝手に連れ込んできた。

 憎い憎い憎い!


「もしもし、パパ?」


 私は、神戸こうべに単身赴任中の父へ電話を架ける。


『やぁ梅子。またパソコンに関する質問かい?』


「ね、パパは凄腕のプログラマなんでしょ!?」


 パソコンにめちゃくちゃ詳しい父。

 この半年間、分からないことがあれば父に電話かメールをする日々だった。


『職業は高校のIT講師だけどね』


「手伝って欲しいの。弱みを握れそうな相手がいて」


『それは「羊さん」にできそうな相手なのかい?』


 パパから教わった大切なこと。

 学校ではクラスのまとめ役になり、そして必ず1人、『哀れな羊さん』を用意するということ。

 そうして自分は、クラスの中にあるわだかまりのすべてを、その羊さんに差し向けるようにすること。 

 たったそれだけで、クラスのみんなは一致団結し、対立もいさかいもない平和なクラスが成立する。

 共通の敵を作って、集団の団結を促す――あのアドルフ・ヒトラーも使った、それどころか古代ローマも歴代中国王朝も大英帝国も使った伝統的手法。

 分割統治。

 事実私は、小学校から中学1年にいたるまで、ずーっとそれで上手くやってきた。


「上手くいけば、できそう」


『それは何よりだね。梅子のにはまだ羊さんがいなかったから、パパは心配してたんだ。ちゃんと可愛がるんだよ?』


 ……そう。

 スケープゴートを用意し、表向きには自分がその羊を保護しているかのように見せるのも、大事なポイントだ。

 私は明治大正組のまとめ役という立ち位置にある。何しろカメと吾輩は犬と猫だし、明治千代子はやりたい放題だから。


 いけ好かない、千代子。

 あいつの特大スキャンダルを暴き、匿名で爆弾を投下したのちに、あいつに優しい言葉をかけてやろう。


 待っててね、可愛い可愛い羊さん。

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