第2幕「2人の【娘】に挟まれて」
1「おや、同級生の様子が……?」
❖4月中旬の朝 /
有栖川アリス、高2、サイタマならぬ
自他ともに認めるスクールカーストトップの美少女。
趣味はダンス。
好きな食べ物は風月堂のショートケーキ。
お気に入りのネイルは駅前の100均で最近見つけたジェルネイルの
――でもそれは、仮の姿。
「見た見た? Ad〇の新曲PV!」
朝、教室に入るとあーしの取り巻き1号・陽子が話しかけてきた。
「ヤバかったよね! やっぱりAd〇しか勝たん。振り付けもちょー可愛かった!」
取り巻き2号の綾香が続く。
振り付けの手マネをしている2人に対して、あーしは曖昧に笑う。
「あーね。リアタイで見てたけどヤバかったー」
ウソだ。
その時間帯、あーしは推しのVTuberの配信を4窓で追っていた。
陽キャの中の陽キャ。
スクールカーストトップの女王。
プロ顔負けのアマチュアダンサーでプチインフルエンサーなリア充――。
クラスのみんなは、あーしのことをそんな風に思ってる。
けれど、それはあーしの仮の姿。
本当のあーしは、極度のサブカルヲタク。
物心つく前から少年ジャンプを枕に眠り、
読み聞かせられるのは少年漫画で、
子守歌はアニソン。
両親とも生粋のヲタクだったから、あーしは『英才教育』を受けて育った。
その甲斐(?)あってか、
あーしは小学生低学年で801に目覚め、
中学時代の推し作品の夢小説にドハマりしながら推しカプで熱いレスバを交わし、
高校に入るやVTuber沼にハマるような、筋金入りのヲタクに育った。
そんなあーしが今一番推しているのが、
――ムーッムムッ
「あっ」
ポケットの中でスマホが震えた。
この振動パターンは――!
あーしは大急ぎでスマホを開く。
果たして、
「千代子様!」
イチ推しVTuber『明治千代子』様がツイートしてる!
「「チヨコサマ?」」
陽子と綾香が首をかしげた。
――ヤバ。
「なになに? 新手のYouTuber? 何系?」
「推してんの? アリス、すっごい嬉しそうなカオしてたけど」
「ち、違うし!?」
「「ホントにぃ?」」
「ホントホント!!」
この2人はあーしの大切な友達であり、あーしの『親衛隊』を名乗るほどのあーしのファン。
2人はあーしの趣味嗜好に興味津々。
特に陽子の方はダンスをやってることもあって、セミプロなあーしのことを『崇拝』してると言ってもいい。
でもだからこそ、あーしの言動に敏感で、あーしがちょっとでも『解釈不一致』なことをすると、過剰に反応する。
あーしの正体が筋金入りのヲタクだと知った日には、どんな反応をして、それがクラス全体にどういう形で拡散するのか……怖い怖い怖い!
「きょ、今日の夕飯、カレーだってママから」
「「あーね」」
とっさのウソを2人は信じてくれたらしく、そして、
――キーンコーンカーンコーン
あぁ、良かった。逃げ切れた。
愛想を振りまきつつ、自席に戻る。
スマホを開く。
千代子様は今日も麗しい。
……ふと、視線の隅に違和感。
あーしの隣の席に座る男子・
それはいい。
神戸は生粋のヲタだ。
むしろ千代子様ファンが増えて嬉しいくらい。
問題は、そのあと。
神戸が、顔を上げたんだ。
それから、ふと、教室の端――最近転校してきたばかりの、ナゾの転校生・明治千代子さんの方を向いた。
そして、
「…………え?」
当の明治さんもまた、神戸の方を見ていた!
2人は数秒ほど見つめ合ったあと、ふいっと顔をそらした。
……何、今の?
なになになに!?
ナゾの転校生・明治千代子さん……
推しと名前が一緒だったことから、最初こそ驚いたものだったけれど。
ギャグマンガみたいなビン底メガネに三つ編みって。
あまりのダサさに、本人なわけがないと思うようになった。
――そのはずなのに。
……授業中も、あーしの頭の中は神戸と明治さんのことでいっぱいだった。
🍼 💝 🍼 💝
その日から、あーしは2人のことを探るようになった。
そうなってすぐ、気付いた。
神戸と明治さんが、何やらただならぬカンケイだということに。
お昼休みになると必ず、明治さんは屋上に行く。
そして神戸もまた、屋上に行く。まるで明治さんを追いかけるようにして。
明治千代子。
推しのVTuberと同姓同名。
ギャグマンガみたいなビン底メガネと、いかにも地味な三つ編み。
あからさまな変装。
神戸耕太郎。
神戸、かんべ、KNB、コンブ――1ヵ月前に突如として正体を現した、明治千代子の【
これは本当に偶然?
それとも――。
もしもこの予想が的中しているとすれば、神戸に接近できるチャンスだ。
あーしには、気になる男子がいる。
神戸のことだ。
気になるっていうと語弊があるかもだけど……。
あーしは、1年半も前に起こしてしまった『あの出来事』について、改めて話がしたいんだ――!!
そう思って、屋上に続く階段で張り込みをしていたある日の昼休み終わりに。
あーしは、神戸と明治さんが一緒に降りてくるところに遭遇した。
「……あれ? 何でアンタたちが一緒にいんの?」
『何で』と聞いたのは、白々しかったかもしれない。
なぜならこの時点で、あーしは確信していたからだ。
明治さんは、本物の明治千代子。
そして神戸こそが、
『可愛いでちゅね~💝 バブちゃん、いっぱいおっぱい吸えまちたね💝』
思いっきり取り乱した神戸のスマホから、千代子様の授乳ボイスが流れ出した。
「ちょっ、神戸、はよ音消しぃ!」
明治さん――改め、千代子様が千代子ボイスで神戸に注意する。
これはもう、言い逃れは不可能だろう。
だからあーしは、攻勢に入る。
「その声……まさか、いえ、
「「えっ!?」」
よし、よし!
確実に注意を引けた。
『チョコ子』様呼びすることで、最古参ファンであることも伝えることができた!
「カンベ、KNBって……まさか、
さらにダメ押し。
「「えぇ~~ッ!?」」
神戸が天を仰ぎ、千代子様があーしと神戸を交互に見ている。
あーしは、最後の一手を放つ。
「
「な、ななな……」
神戸が口をパクパクさせている。
――よし。
これで、関係が築けた。
あーしが神戸に対して『本当にしたいこと』をするための、繋がりが。
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