第7話 アリシア捜索作戦①
本部の応接間に入ってきたカルラは、白衣を脱いで帝国軍の常装姿だった。
「失礼します。国立軍事研究所第五科課長ののカルラ・フィッシャーです。カルフィール軍学校アルガイル・ハインツ講師及びフォルク市警備隊隊長モーリス・ジョージ曹長に国立軍事研究所第五科から応援要請です」
「謀ったな、アルガイル」
「知らんよ」
国立軍事研究所の研究員は基本的尉官官待遇である。下士官のモーリスには私情ごときでは到底逆らえない相手だ。
一方のアルガイルも、カルラが仲間と合流しに行った事は知っていたが、まさかそれを率いて警備隊に圧力かけに来るとは想像もしていなかった。
「...ったく、手前に従うことになるのは癪だが、国研の士官サマの要請とあれば応じましょう」
モーリスは、酷くアルガイルを
「ちょっと待ってください。本作戦の指揮はハインツ講師に取っていただこうと思います」
『は?』
アルガイルとモーリスの声が重なった。モーリスは小声で「白々しい…」と僻言を言った。
「そりゃ、この場で一番優秀なのは誰だか言うまでも無いでしょう」
アルガイルは失脚しているとはいえ帝国陸軍の北方軍司令官であり元帥だ。一尉官、一士官に過ぎないカルラやモーリスとはそもそも格が違う。とはいえ、警備隊にも世間体とプライドというものがある。モーリスが言い返した。
「しかし!ハインツ講師のかつての愚行は国内ばかりでなく西方世界に轟くものだっ」
「世間体を気にして最善の選択肢を自ら除外しに行くのがフォルク市警備隊の信念だと言うのでしたら私は止めませんが…」
モーリスの顔が一気に上気した。なにやら言い返そうとしていたが思いつかなかったようで、好きにしろ、と言い捨てた。
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アルガイルを中心とした臨時作戦は、出だしこそ揉めてまごついたものの、夜を徹して概ね順調に実行された。
市内への厳戒令の発令、各検問所の通行禁止、フォルク港の封鎖。加えて市域全域を警備隊と警備隊の要請を受けた海軍の部隊が警邏にあたった。あちこちに篝火やサーチライトが焚かれ、さも戦時中のような様相を呈している。
陸軍最大の嫌われ者であるアルガイルへの協力を海軍は当初拒もうとしたが、帝国周辺海域の制海権の象徴である海軍が自国本土へ侵入した敵国工作員を取り逃がしたとなるとただ事では済まないため、渋々協力した形だ。
カルラの
「フォルクの対岸は連合国の旧植民地の国だから、連合国の作戦基地があっても不思議じゃない。 飽くまでも私の直感だけれど、アリシアちゃんを攫った奴は港から出国しようとしていると思う」
という提案で港湾部の検疫所に作戦の指揮所が置かれ、アルガイルとモーリスはそこで指示出しを行い、実地で警邏と捜索を実施している部隊の報告を待った。
===
目が覚めると、薄暗い部屋の中だった。天井は低く、小さい窓から入る光のみが、室内の物品にぼんやりとした輪郭を与えている。ぼんやりとしか物が認識できないのは、目を覚ましたばかりだからだろうか。
そんな事を考えながら意識を取り戻したアリシアは、部屋の狭さと暗さから船室を連想しついぞ出港してしまったのかと絶望しかけたが、一切の揺れも無いのでどうやら違うらしい、と思い直した。
「クソ野郎が…」
ひどく低い声の、乱暴な言葉が聞こえた。思わず、誰!?と声を荒げる。
「あ?五月蝿いな…。 おいコクロウ、薬が足りなかったんじゃねーか?」
「知らんよ」
その知らんよ、という声にアリシアは聞き覚えがあった。酒場をでてしばらくの間アリシアをストーキングした上におそらくは捕らえた男の声だ。両手両足を拘束されていてまさか捕らえられていないなどと言うことはないだろう。
ねえお二人さん、縛ったまま女性を放置するなんていい趣味ね、と声の主の二人に呼びかけた。コクロウ、と呼ばれた方の男がアリシアに返事をした。
「あんま喋らんでくれ嬢ちゃん… いま想定していた最悪の事態を軽く突破する事態になってるんだ…」
もう一人の方の男がアリシアの首根っこをつかんで男が覗いていた木の隙間にアリシアの目を押し付け、言った。
「お前もあそこにクソ野郎が居るのが見えるだろ?」
アリシアの目線の先には、怒鳴り散らかすモーリスと、あの嫌いな男の姿が写った。
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