第6話 魔女の謀略
駆け出していった二人を見て、セレナは軽く舌打ちをした。アルガイルとカルラへの引き留め工作が失敗したからである。
セレナが帝国に来るにあたって、本国から与えられた使命が一つ。
”魔女”を探すことだった。
セレナの本国では先の大戦での反省と既存の「魔女」の高齢化から後継となる存在の必要性が論じられるようになり、出身国を問わず魔女を探している最中だった。
アリシアはうっかりアルガイルたちの”光盗りの香水”を見破ってしまったせいでセレナに魔女の嫌疑をかけられたのだ。
嫌疑と言っても魔女狩りなどという迷信じみた理由ではなく、アリシアが純粋に魔導技術に対する親和性の高い体質なのでは、という疑いである。
そこで、彼女の素質が本物なのかどうかを確かめるためにもセレナは配下にアリシアの跡を付けさせて彼女を本国まで拉致する気だったのだが、元来諜報員ではないセレナに愛想の良い女将の素振りをしながらアルガイルの相手をするのは(セレナが酒場の女将がしたかったのは事実である…)、到底無理な話であった。
結果セレナは”話しすぎ”、アルガイルに彼女の予定の一端を悟られてしまった。
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街に駆け出したアルガイルは、追いすがるカルラを置いて…いや、一応は後をついてきていることを横目に確認しながらだったが…アリシアを探し仕事終わりの労働者であふれる夜の繁華街を走り回った。
しかし、見つけることはできなかった。
「どうする、カルラ」
「んーーーーー…ひとまずはお家に帰ってくれてると考えたほうが精神衛生には良さそうだね…」
そうは言っているものの、カルラの顔も明るくはない。
「攫われてない確証は?」
「あると思う?」
「無いな」
「
「概ね本当だろう」
「彼女が攫われたと仮定して、明日になっても連れ戻せる確証はある?」
「無いな」
二人は、顔を見合わせ頷き各々の向かうべき場所へと向かった。
華やかな街、フォルクの長い夜が始まった。
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酒屋を出たアリシアは、自身の後をつける存在に気づき撒こうとしたが、そうやって路地にそれるたびに気配は増え、そのうえ袋小路に誘い込まれていたことに気がついた。
「ストーキングは帝国法違反だってご存じないのかしら?」
アリシアの持ち味のひとつはその気丈夫さである。しかし、流石にこのような状況ではいくら虚勢を張っても声は震えていた。
「知らないな。知る意義もない」
影から、男の声が応える。
「私を嬲ろうって魂胆でしょう」
「残念ながら貧相な女は問題外だ」
「あら、これでも血筋では未来がある家系よ」
彼女は暗闇に向かって笑って見せる。
「…時間稼ぎはもう良いか?どうせあんたの恩師サマは来ねぇぜ。下手すりゃ気づいてもいねぇだろな」
「あの男が恩師?笑わせないで」
「まあ良い。とりあえず静かにしてもらおうか。お子様のお守りは仕事じゃないのでね」
アリシアは首筋に僅かな痛みを感じた。なすすべもなく、意識は遠のいていった。
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カルラと別れたアルガイルは直ちにフォルクの警備隊の本部へ向かった。目的はここ一帯の地域の封鎖である。
フォルクと軍港かつ帝国西部地域の主要な外港の1つであるカルフィールは地理的にも近く、更に大洋を挟んでカルフィールの反対側は王国の旧植民地であるなど、発見が遅れれば遅れるほど、アリシアの身柄を確保できない可能性が急速に高まる地域なのだ。
しかし、元は軍の最上級の将校であるとはいえ、今や軍学校の一教師であるアルガイルが、子供一人が行方不明になったごときのことで港湾封鎖などという大袈裟な事を、しかも単身で正統な手続き無く求めてきたことに警備隊の上官はいい顔をしなかった。
「アルガイルさん、あんたが偉い人間だっていうのはこっちも知ってるがね…あんた今の自分の社会的地位が地に落ちていることについての自覚はある?」
「そんなこと判り切っている。それでも火急の事態だから口唇を噛んで要請しに来てるんだろうが」
「じゃぁまずはあんた直属の上司に話をすべきでしょう」
「軍学校から実地の連隊に話を通すのにどれだけ手間がかかると思ってる」
「逆に聞くが港湾封鎖にどれだけ時間も、経済的にも、人員的にも手間がかかってると思うんだ。たかが商家の娘がいなくなった如きでできることじゃないんだぞ」
「そういう態度だから
「あ”ん?こっちは職務を果たしているだけだ!言うに事欠いて肩書の話か?お前がいまこの世界で一番それを言えない人間だろ!?」
燃え上がる二人の会話を聞いて、割り込む余地すらない状況に周りの下士官はおろおろしだした。
ちょうどその時、もう一人の客が警備隊本部へ現れた。カルラだ。
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