第5話 マジカの夜明け④
「まぁ、ハインツは名乗ってないだけで隠してないし、流石にマーガレット・”セレナ”・ハインツの存在は
そういってセレナは丸机の上に置いてあった水を手にとって、飲んだ。部屋に通したタイミングで全員分セレナが用意したが、カルラとアルガイルは警戒して手を付けていなかった。
そのまま、セレナは話を続ける。
「正直、それはどうでもいいんだよ。私が聞きたいのは、
「どういうことだ?」
「知らないふりをしてるのか本当に気づいていないのかは分からないけど…まあいいや、わからないのかい? さっき、アリシアが店から出てっただろう」
「ああ。 お前がアリシアに云って、アリシアが私やカルラに気づいたからだろう?」
「うーん……そうじゃないって言ったらわかるかい?帝国軍人には馴染みが無いだろうけれど」
思わせぶりなカルラの話し方がアルガイルの気に障ったのか、アルガイルの語尾に怒りが若干こもる。
「気づくも何も、何に気づいたら良いんだ」
「カルラさんは気づかないかい? 彼女は自分であなた達が来たことに気づいたんだ」
「…光盗りの香水が効いていないか…」
「そう!。そうなんだよ。 その調子じゃ、あなたたちは気づいていないんだね。もっと言えば、そういう訓練を学校で積ませてる様子でもないようだ」
「いい加減、説明してくれないか」
アルガイルが口を挟む。目線でセレナにうながされ、カルラがこたえた。
「光盗りの香水は、認識を阻害するって言っても、正確には”認識されにくくする”効果じゃなくて、”一定以上の興味を抱くことを妨害する”効果なんだよ。香水中の原液の濃度によって一定のレベルを決めれるんだけど…私達が振っておいた香水はかなり効果の強い方のもので、例え親子でも道端で一度すれ違った程度の認識にまで程度を落とせるものなんだ」
セレナが付け加えた。
「私は訓練を受けていたからあなた達に気づけたけど、うちの店員は誰もあなた達の正体に気づいていなかった」
「!なるほどな…」
アルガイルもようやく気づいた様子で返事をする。
カルラが続けた。
「帝国の軍学校はどこを探しても未だ”魔導技術”による精神錯乱やら精神操作に対応するためのカリキュラムはない…となると、考えられるのは彼女は秘密裏に、軍学校にもバレずにそういったたぐいの訓練を受けていたか、彼女に天賦の才があったのか…。」
「連合側の一部の軍学校でも始まったばかりの修練だからね、アリシアちゃんが学んでるとすれば私達にバレるようなヘマはしないだろうさ」
「となると本人には無自覚なのか…。」
「それが単に尋常じゃない観察眼なのか、いわゆる”魔女”のような類の能力なのかは謎だけどね」
セレナがそう言い終わらないうちに、アルガイルは勘定だと言って無造作に10万マールク非兌換紙幣をテーブルに叩きつけて階下へ駆け出した。カルラは一応挨拶をしてその後を追った。
※マールク:帝国の基軸通貨。基本的に1〜500マールク硬貨で流通するが紙幣には戦時中に発行された非・兌換紙幣のマールク札と戦後に発行された兌換型マールク札がある。
戦時中のマールク札は戦後の改札でインフレが起こり、経済への少なからずの影響が見込まれたため「戦勝がほとんどパーになるくらいの」予算を消費した国立銀行捨て身の政策によってインフレは落ち着き現在は1兌換マールク=10非兌換マールク程度で取引されている。
つまり、アルガイルが叩きつけたのは約1万兌換マールクで、街中の酒屋に払うには少々高額な金額である。
======================
アルガイル・ハインツ(40〜50?歳):「先の大戦」で陸軍の北方軍のトップだったが、終戦間際に女性の兵士に猥褻なことを強いた事件で、カルフィール軍学校の教官にまで降格させられた。
アリシア・ハプルブルク(16歳):没落貴族の娘。長子のためか責任感が強い。魔女?
アリシアの父・アリシアの祖父(?歳):比較的歴史のある男爵家の現当主と先代当主。二人とも経営に才があり紡績で財を成したが「先の大戦」で財産を殆ど焼失した。
コペル・ハインツ(享年33歳):魔導技術の大成者。ヴァンダリアで生まれ育ち、その才能の非凡さは帝国もマークするほどだった。
マーガレット・”セレナ”・ハインツ(43歳):コペルの妻。ヴァンダリア出身で彼女もコペルと共同して魔導技術を発展させていたが現在はなぜか帝国で酒屋の女将をしている。
カルラ・フィッシャー(30〜40?歳):白衣姿の研究者。国立軍事研究所の上級研究員は相当高身分だが、本人は意に介していない様子。アルガイルとやけに打ち解けた様子。皇帝様とも仲が良い!?
カイ・ハーマン(16歳):アリシアの同級生。カルフィール近くの地主の息子で、放蕩すぎる余りに軍学校に入学させられた。
ケルケハルト(34歳):フォルクの漁民。気は良いが酒癖が悪い。?主要キャラではないですよ。多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます