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詳しい話を聞きたかったけれど、さすがに撮影の時間が押していた。
気持ちを切り替えて、ダムでの撮影を始める。幽聖さんがそこにいる、と指さした場所にはやはり誰もいない。いない、というよりも、僕には見えなかった。
橋の前でオープニングを撮り、そこからはいつもの流れで一通り見て回ることになった。
橋を渡る前にやっぱり幽聖さんは、懐中電灯をカチカチと点滅させ、それから一礼して足を踏み出した。
僕はその流れももしや、見られていることを意識したものかもしれない、とさっきの話の流れから察していた。気にはなるものの、さすがにカメラが回っている時に聞くのは憚れた。
ダムでの撮影を終えると、再び二人で車に乗り込んだ。
次の目的地まで三十分。車が動き出して早々に、僕は疑問に感じていたことを口にする。
「懐中電灯を二回点滅させるのって、もしかして、合図かなにかですか?」
それに対し幽聖さんは、「そうだ」と実にあっさりと答えた。
「入り口で挨拶するのも、もしかして誰かいるからですか?」
「いや、いるからというわけじゃない。そこにお邪魔するのだから、礼儀としてそうしているだけだ」
「そうだったんですか」
長年の謎が解けたことに、僕は非現実な内容どうのよりもスッキリとした気分になっていた。
「俺のしていることをヤラセだと思うか?」
意味が分からず僕は首を傾げる。ヤラセも何も、実際に目の前で霊障は起きているのだから。
「彼らはあらかじめ、俺たちが来ることを知っているんだ。そのうえで、協力してくれている。ある意味演者でもあるんだ」
「言われてみれば、そうですけど……」
でもそんなことを視聴者が分かるはずもなく、それどころかその話を信じる人間は少ないようにも思える。
「時々思うんだ。俺はリスナーを騙してるんじゃないかって」
幽聖さんらしくない弱音に、僕は「そんなことないですよ」とフォローする。
「幽聖さんはちゃんと、チャンネルに書いてるじゃないですか。人為的なヤラセはありませんって。おこしているのは霊であって、僕たちじゃないんです。それにどんな霊障が起こるかまでは、さすがに幽聖さんも知らないですよね?」
知ってたら、さすがにどうかと思うが、僕の期待通りに幽聖さんは「……そうだが」と言って否定しなかった。
「ならばそれは、ヤラセじゃないですよ。僕たちは知らなかったんですから」
「……ありがとな」
幽聖さんなりにも、葛藤があったのだろう。さっきまで悩ましげな表情だったのが、少しだけ和らいでいた。
そして僕も、幽聖さんとの距離が少しだけ縮まったように思えて、自然と笑みがこぼれていた。
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