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 翌日の夕刻。

 駅で合流した幽聖さんの車で、そのまま二時間ほどかかるダムへと向かった。

 今日の撮影は何カ所も回るロケで、長時間の移動がメインとなる。

 そこで僕は、日頃からの疑念を晴らそうと考えていた。

 運転するのは幽聖さんで、基本的にあまり会話はしない。体力の温存というのもあるけど、そもそも一緒にいる時間が長いせいか話題がなかったのだ。今年二十五になる僕と、十歳年上の幽聖さんとでは話題もなかなか合わないのもあった。

 だけど今日こそは、僕の意見も聞いて欲しいという気持ちもあった。

 僕がいかにこのチャンネルを愛しているのか、幽聖さんを尊敬しているのかをまず語った。

 それから最近、リスナーから行って欲しい心霊スポットがあるというリクエストが多い旨を伝えた。

「幽聖さんがこだわる気持ちも分かります。自分のチャンネルですから。だけど、その理由が僕は知りたいんです。だって、もう二年も一緒に活動してるんですよ。それなのに片想いだなんて、なんだか切なくて」

 今までの鬱憤を晴らすが如く、僕は随分と熱が入っていたと思う。気がつけば、目的地のダムに着いてしまっていたのだから。

 車のライトが照らす先は、ずっと伸びた橋の前だった。その暗闇の先に、目的とするダムがあるのだろう。

「すみません……偉そうなこと言って」

 急に頭が冷えた僕は、悄然として謝る。無言で前方を見つめる幽聖さんが、何だか怖かった。

「忘れてください。そういうことは聞かない約束でしたよね。すみません」

 僕が助手席から下りようとしたところで、幽聖さんが「待て」と引き留める。

「お前の気持ちはよく分かった。このチャンネルに対する思いが深いことも」

 幽聖さんが一度、大きく息を吐く。

「だけど、到底信じられない話になるだろうし、最悪、俺の頭がおかしいと思われるかもしれない」

「信じますよ。どんなことでも。それとも、僕が信用できませんか?」

 僕はやや前のめりになりながら、幽聖さんに訴えかける。

「非現実的なことなんて、この一年間に何度も経験してきています。それを今更、騒ぎ立てたりしませんよ」

 言いふらされるかもしれないと思われているのだったら、心外だった。この二年間。幽聖さんを裏切るようなことはしていないし、誠心誠意尽くしてきたつもりだ。

 幽聖さんはしばらく眉間に皺を寄せ考え込んだ後に、「……そうだな」と吐き出すように言った。

「なんで、俺がお前を採用したか……覚えてるか?」

 幽聖さんの問いに僕は「霊感がないからですよね」と答える。幽聖さんが頷く。

「お前はゼロに近いと言って良いほどに、霊感がないからだ」

「霊感がないことで、リアルな反応が見られるからですか。幽聖さんが霊感があるから、その対比にもなりますし……」

 自分なりに考えた解釈を述べるも、幽聖さんは苦笑して首を横に振った。

「あそこに人がいるのが、分かるか?」

 幽聖さんが正面を指さす。目を凝らしてそちらを見るも、人の姿は一切ない。

「あそこに、依頼人がいるんだ」

「依頼人ですか?」

 僕は再度視線を向ける。だけど闇に沈んだ道があるだけだった。

「分かりません」

 僕は素直に答える。

「二十代前半の男性で、俺にこの場所を教えてくれた人なんだ」

 その一言に僕はゾッとしながらも、まさかと幽聖さんの方を見た。

 僕の思考を読んだかのように、幽聖さんが頷いて見せる。

「そうだ。俺が決めている場所はすべて、そこで彷徨う霊たちから依頼された場所なんだ」

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