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幽聖さんが動画サイトにチャンネルを開設し、そこに僕も加わってから三年目になる今年。幽聖さんはもう百カ所以上の心霊スポットを回っている。そのせいか、幽聖さんはちょっとやそっとじゃあ動じないようだった。その毅然とした態度や心霊スポットに対する姿勢に、チャンネル登録者数は八十万人にものぼる。
僕もこのチャンネルのメンバーに加わってから二年が経ち、ある程度の肝は据わってきているはずだった。だけど、怖いことには変わりない。
「おい、今聞こえなかったか?」
足を踏み入れて早々に、幽聖さんが足を止めて僕を手で制する。
――ザッザッザッ
僕が足を止めて耳を澄ませると、確かに足音らしきものが背後から聞こえてきていた。
始まった、と僕は思った。緊張から喉の渇きを覚え、背筋に悪寒が走る。
「近くにいるな」
幽聖さんが辺りをぐるりと見渡し、それから険しい表情で「誰かいますか?」と、声をかけた。
途端にバン――という激しい音が響き、僕の肩が跳ね上がる。
幽聖タイムのはじまりだった。彼が心霊スポットに行くと、必ずと言って良いほどに霊障が頻発する。
「男性ですか?」
――バン
「女性ですか?」
さっきとは対照的に、シーンと辺りは静まり返る。
「男性なんですね」
返事をするかの如く、バン――という音がまたしても響き渡る。
「この山荘の関係者なのかもしれないな」
近くに落ちていた従業員の写真を照らし、幽聖さんが呟く。それからふと顔を上げて、一点を見つめる。
「見てみろ。あそこ」
幽聖さんが指さす方にカメラを向けると、散らかっているエントランスの向こう側、廊下の先にある扉が薄らと開いていたのが閉まった。
「うわっ」
僕が思わず声を上げるも、幽聖さんは「さっきから、あの扉が気になってたんだ」と冷静に口にする。
「行ってみるか。怖いけどな」
怖そうには見えない淡々とした口調で、幽聖さんがそちらへと向かってしまう。
僕は後を追いながら、散らばったパンフレットやガラス片を動画に収めていく。
もちろん恐怖心はある。だけどこれも仕事であって、やるべきことはしなければいけない。人気チャンネルのスタッフに選ばれた以上は、それなりの責任が必要だった。
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