偽りの意匠

 たたたたたたたたたた.......ととん...

銀の髪の女性が、鋼のポニーから降り立つ。

パステルピンクの瞳で、

看板を撫でるように眺めると....

「少年、降りな」

そう言う、その彼女の名はシュネーである。

台詞セリフを聞いて荷台に張られたテントの中から

ゆっくりと降りるのは、

黒髪ショートでターコイズブルーの瞳...

そんな容姿の華奢な少女....

「むっ。」「ん?」「いや.....」

少年、ルアは...ルア達は旅人だ。

「ここはなんです?」

「看板に書いてあるでしょ」

「あ、はい...って...服屋って急に...それも。」

それも...キュートな外見のブティック。

「少年のね、服をね...買ってあげよう」

「こ、ここでですか!?」

「ちょっと必要なんだヨネ」

「......そう言うならそうなんでしょうけど...念の為....また聞きますよ?誰の服を...」

「少年、君の服だ...キャピキャピにしたる」

「えぇ.....。」


「ほい、これ」「まじですか。」「まじ」「こっちは....。」「いや、こっち」「きょひけん!!きょひけんは!!」「ナイヨ-」「うあああああああ......。」

「じゃ、行くか!くん!」


 たたたたたたたたた....とととん...

『こんにちは!旅人様ですね!特に手続きはありませんので...そのままどうぞ〜良い観光を〜』

適当な料理店の前に停めると....

「小娘くーん、いくぞ〜」

「こんなのってぇ....。」

荷台から降りてきたのは...

ダボっとしたトップスに、膝までのスカート。

頭にはリボン付きのカチューシャ...

お前本当に男か?なぐらいで、

今までがちゃんと男子に見えるレベル...

恥じらいで姿勢が縮んでいるせいで、

普段より更に華奢な印象が出てしまっている。

「似合ってる、似合ってる♪」

「ひゃええ....。」

ポニー(車のこと)が目に入る位置にある、

店の適当な席に座ると...

女性店員がハキハキとこう言う。

『注文はいかが?』

まずシュネーが...

「サンドウィッチと珈琲コーヒーを...小娘くんは?」

偶に反応が遅れてしまうこの小娘呼び...

なんとか食らいついて...

「お、同じものを....。」

『ハハハ君、...女ならもっとハッキリ喋りなよ?...で、注文は以上で?』

以上それで...!」

店員は会釈すると去っていった....

ルアは何か違和感を感じた...。

思い切って...シュネーに小声で聞いた.......

「ハッキリって...どういう事です...?」

小声で返ってくる...

「よくぞ...実はこの国....女性の地位が男性より高いんだ.....威勢を持って過ごすのが、この国での女らしい....って奴らしい...そう言うのめんどくさいからあんま気にしたく無いが....この旅を円滑〜に進める為に...君には女装をして貰った訳だ...。念の為、シャワーはこの国中は無しでいいね?」

小声続行で....

「ま、まじですか...。あ、シャワーじゃなくてですけど...。....って事は....いつも通りしとけば良いんですね?」

「いや、いつもの君はこの国での男性そのまんまだから....頑張ってちょーよ」

「....げぇ....ちょっとショック。」

『はい!サンドウィッチお待ち!それと珈琲だ!』

「ありがとう....」

「あ、ありがとうございます!!」

『いいじゃねぇか!楽しんで!』

「あうっ...。」

ばしッと背中を叩かれそんな声が出たが...

特になんも無かった。

サンドウィッチは普段通りだったが...

「うっ...こーひー苦いです。」

「がんばれ〜」

無糖のコーヒーはルアには大変だった。


 すっかり楽しんで、宿に戻る途中だった。

一度宿にポニーを預けて置いて、

また歩きで国を回っていたのだ。

暮れ行く蒼空にキラキラと一番星。

ローファーまで履かされていたルアは、

当初は歩きづらそうだったものの...

今では平然と歩いている....。

このヒト、慣れが早い....と、

向かいから男が何人か歩いて来た。

「流石に襲われませんよね?」

「なに?自身の可愛さ気づいちゃった?」

「そ、そんなんじゃないですっ。」

すれ違いざま、ガタイの良いその男達は、

道の端っこを沿う様にうすーく並んで...

不自然に避けて道を進み出した。

そのチラ、チラという視線は....

少しだけの畏怖が込もっている風に感じた。

「これはこれで...なんだか嫌ですね...。」

「世は強い方が勝つ....単純だけど....恐ろしいシステムだよ」

そうして宿に着くと、

直ぐさま鋼ポニーの無事を確認し...

その日を終えたのだった。


 翌々日、この国を出た...

男達が浴室の隅にへばりつくカビの様に、

ただ只管ひたすらにチビチビと...生きる国...

ルアは、もう少し...本当に少しだけ...

胸張って生きて行こうと......

すっかり馴染んだこの女装を、

ほどき畳んでいる時にこう思った。

こびりついたローファーの感覚が....

バランス感覚を揺れ狂わせるが、

心配する事も無く、直ぐに慣れ戻した。






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