幾倍の決闘

『.......』

「.....?」

ぼーっと、その少女の曇った瞳は

商店街の屋台の方に向いていた。

確かに昼時だ。しかし並んでいる...。

黒髪の少年、ルアがちらりと財布を見る...

しない気の賭け用で割と潤っている。

........決意、

奢る事にした。その子、ピシーは

何も持っていないようだ...

あと、何だか蝿たかってるから...。

「何が欲しいの?」

『そんざいいぎ』

「じゃ、無くて.....。ほら、食べ物。」

『....ダメ、さがす』

「んん.....食べないと動きづらいくて探せないよ?」

『........』

ぐぅー。

『ん....、りんごあめ。』

「解った!ここで待っててくださいね。」


ルアが離れ、

ピシーは道の真ん中で突っ立っていた。

ごん

『なんだおメェ道の真ん中で....!ちっ...へへへ........』

少女に大男の手がかかる。

『......ッ!!』

少女は振り払おうとするが

力が上手く入らない...。

そのまま路地に引き摺り込まれた。

汚い笑いを漏らしながら、

男が抱きつこうとする。

『イヤ.......!!!』

『クソッ!ハエが....!邪魔くせぇ....』

『邪魔だよ』

『なッ!?何だきさm.....』

大男は崩れ落ちた。

『この...よくm....』

股間を押さえ込みながら....

泡を吹いて"沈黙"した。

「"ちん"だけn....っと危ないねぇ」

『危ないのはそっちだろう?』

「へへへ....」『ははは...』

濁すような笑いを交わし、

『大丈夫...?』

『.......あり.....がとう.......?』

『どういたしまして。』

『ありがとう.....!」

『どういたしまして! 』

「りんご飴買ってきた...って師匠?」

ほらと師匠が路地を指す。

それらを見て、

「早いけど行きますか次の国...。」

「おっし、行くか!」

ルアは袋に入った、

真っ赤なりんご飴を大地に刺した。


円形に造られ

石の壁に囲まれた闘技場。

その中に浮いた島に1人の少女が立っていた。

何故だか血液が沸き立ち

心臓は大きく音を響かせる...

その少女は、その名はピシー.......


奴隷として運び込まれ、

めちゃくちゃにされても

何も感じる事もできなくなるほど

彼女の心はぐちゃぐちゃで闇の中。

雇い主は何もできないそんな彼女を

コロシアムで闘わせた。

死ねばタダで退役。

生き抜けば大金。

雇い主はダガーを渡して放り出した。

初めての決闘は大穴枠だったが、

全くの圧勝だった。

まるで妖精の様な綺麗な闘いだった。

そしてあるじにピシーと名付けられ、

そして彼女は褒められた。

勝ち続けた。

殺して褒められて。

あっという間に増えてく万金が...

その棚ぼたが面白かった主は

ダガーをもう1つやった。

日に日にエスカレートして行った。

内蔵の事を一切考えない....。

蘇生も間に合わないほど、

嘗ての彼女の心のように

相手をぐしゃぐしゃにし続けた。

その少女からは微塵も血が流れなかった。

ある日、安定以上の強さから

遂にオッズが1.0000倍になった。

紛れも無い等倍。

そして初期の頃とは似つかない

気品の無いその闘い様に、

応援する者も減って行った。

手放し時だと考えた男は

今迄いままでの獲得金の7億分の1の退役金を払い...

彼女を追い出し、主本人は国外へ消えた。

(その主が隣国で企業に失敗し賭博目的でこの国に戻ってきていた事は....彼女の知る由では無いが)

帰らぬ主を

待つ日、待つ日....

はだかる戦士を殺し続けた。


そして...

『強いヒト、私は貴女を越える...!』

青い、盗賊のような衣類に

身を包む、1つの思いを持って臨む

その少女の名はリートと言った....。

「こんどは、ワタシがみとめるばんね」

新調したワイシャツ、スカート

腿にダガーホルダーを付けたピシー。

{さて!遂にアイツが帰ってきた!皆さんお待たせしましたッ本日初戦にて最終戦ッ!等倍ハッグ、ピシー!対するは...!!!さすらいの魔神賊、リート!!無限数と未知数...果たしてどちらが強いのかっ!!}


「アナタをころして、いっしょになる、つかかんだらはなしはしないわ....」


{レディ──────ッ}

ピシーはダガーを二振り、

リートは青龍刀を構え、

{GO────────ッ!!!}

両者が飛び出した。

普段通り、一瞬の闘いだった。

全身至る所から血を吹いて

リートは静かに倒れた。

た、た、た、た...

それに歩み近づく少女は

脇腹を特に濃く赤く濡らしていた。

「...アナタは、つよいのね」

しかし、その青き少女は、

何も言わずに呼吸だけしている。

「さようなら.....」


「......」


「..............」

「ころせば...いっしょになれる?」

『なるものか.....。』

「.......そう』

「いきてたらわたしをみとめつづける?」

『勿論....越えるまで....」

「..............いきて」

ぺたん、と座り、

ピシーは力尽きた。

快晴だった。


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