等倍の決闘

 ねぇ、あとなんにんころせばいいの?

 ころしたらほめられるんでしょ?

 ろくじゅうじゃまだダメなの?

 あとなんにん?


 ねぇ


 涼しい荒野を鋼のポニーが駆けていた

たたたたたたたた....

「師匠、見えてきましたよ」

 師匠と呼ばれた、いや、

艶やかな銀色の髪を、

嘘みたいにボサボサにした1人を....

運転席に座った黒髪の方が起こす。

「あ〜、おはよ」

そう言う銀髪の名はシュネー...

「はい、おはようございます。」

返すドライバーはルア....彼らは旅人だ。

「さてさーてどんあもん」

荷台に張ったテントの入口をめくり、

上半身をグイッと曲げて身を乗り出す。

危ない。

「あれがコロシアムねぇ城壁よりでかいって余程に推しなんだねぇ...」

「"殺し合う"大会って、僕、あんま直視できないかも...って!何笑ってるんですか!」

「いやぁ...ハッ、フフ...なぁんにも」

賑やかな2人を乗せ、

相変わらず1台の鋼のポニーは駆け続けた。


 だれもみとめて、ほめてクレナイ。

 しずかなの、ころしても。

 もしかして、ころされたら、ほめてクレル?

 ころされたら、わたしがしずか...。

 しずかはこわいわ....

 ころすの、ほめてもらえるまで


 入国後、勿論宿探し。

目立つのは目玉のコロシアム、

そこから同心円状に建物が並ぶ。

法律でそのコロシアムよりも高く、

建物を建ててはいけない為に、

どこから眺めても.....

黄色掛かった石造りの壁が目に入り込む。

双方シャワーを浴びて、

観光に出かける事にした。

宿がある方は落ち着いているが、

国の核に近づくにつれ、熱い熱気を感じる...

まるでお祭りのような雰囲気オーラが出てくる。

立ち寄った店の主人に、

「祝い事があるのかい」と聞くと

『万日お祭り騒ぎだよこの国は』

...と返ってきた。

核にあるコロシアムでは毎日大会が有り、

堕ちた兵士や、ならず者、無一文が、

賞金と名誉を賭けて殺し合う。

そして其れを観て

富裕商人等が金を賭け、楽しむ。

2分の1で戦士のオッズ分に金が増え

外せば国が大儲け....。

それでこの国は栄えていた。

意を決し、ルアは見る事にした....

今日の戦士のオッズは...

「8.0倍と1.000倍...えぇ?」

『そうなんだよ…15日前からずっとこの調子でねぇ』

『アイツ強すぎるんだよ…死んでくれりゃ常連からももっと金をせしめられるんだがね...おっとイケね!』

『ハッハッハご冗談を』

『ははっはは!』


 受け付けが盛り上がっているが

今回はデータが分からない為、

賭けずに入場券だけ買う....

8倍なら大穴どころじゃないが

その等倍の戦士が相手であるなら、

余程の事がない限り、

金を預けて2割の手数料を取られて終わりだ。

つまりどっちに転んでも手持ちが減るだけ。

いや、"どっち"って確信も無いが....

「師匠、行きましょう...!」

「少しは厳しい現実を目に焼いとけよなー」

「うっ...はい!」

賑やかな場内を掻く拡声器からのアナウンス。

{本日もお越しいただきッ!誠に有難う御座います!今の天気、若干雲行き怪しいですが...私達の盛り上がりでさっぱり吹き飛ばしましょう!......今回は99勝中、無敵の筋肉漢!鋼のザック!!対するは...!等倍ゴブリン、ピシー!ザックは突如沸き出したゴブリンバーサーカーを仕留め、100勝目の踏み台にする事は出来るのかッ!}

そうして入場して来たのは2mを越える身長、

それをも越える大剣を担ぎ...

鉄の鎧を着た巨大な男と、

紅いシミが広がったドレス風な服で

ボサボサなショートボブの少女、

{レディ....!!!}

じゃきっ....

双方、思い思いの武器を構える。

{GO──────ッ!!!!}

だっ!!!

どちらも勢いよく走り出した。

たたたたた...

男は大剣を軽々と振り、

迫る相手に間違いなくぶち当てた。

だが手応えは無かった。

そして視界から相手は消え、

『なにを──────』

風の切る音が観客に聞こえ....る前に、

巨人男は地面に突っ伏していた。

赤い液体が血を這う。

と、と、と...

足音が聞こえた。

『ふっ!?へへへ...頼むよ俺には家族が居るn...』

ぐさ

ぐささささささ

あっという間に肉達磨が出来た。

少女の持った2本のダガーは

ガタガタに刃こぼれしていた。

歓声は無かった。

俺の8倍がァ、つまんないな、だの

100勝目ぐらい通してやれ、だの

せめて生かしてやれよ、だの

その雰囲気は落ち切っていた。

ブラボーという声もひとつあったが

呟くような小さな声だった。


「少年と同じ位だな、身長」

「まぁ...そうですかね..。でも、強かったです...。」

「少しはあれぐらい闘えればお嬢さんなんて言われないんじゃねぇか?」

「むっ!!......。」


 ダガー2本を肉に刺したまま、

ピシーと呼ばれた少女はまるで棒の様に.....

ただただその場に立っていた...

笑顔だった。

降り出した雨がゆるりと血を洗った。


 EXT

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る