作家のいる国

 一人の少年が旅をしていた。

彼の過去は謎に満ちており、

この物語の話し手である私でさえ...

彼については深く知らず...。

だが彼は何処かで実在しているであろう。

そんな一人の小さな旅人の話...。


 さて、そんな彼が向かった国は...

それはそれは平凡であるが、

そういう国程、どうしようも無いくらいに

素晴らしくお宝な話が聞ける事があるのだ。

特徴のある国はそれはそれで面白いが、

そのような場合、国についてばかり注目し、

そこの住人について知る事を忘れてしまう...。

まだ入国もしていない為、考えても無駄か。


 幾分歩くと城門が一つ見えて来た....。

そのまま無事にその質素な石門をくぐる。

街も石造りの家がそこそこ立ち並ぶ。

石と言ってももっと赤っぽい感じだ....

グレイでは無い。

真っ逆さまに日は落ちて、

道に沿って建てられたロウソク灯に、

一つ一つ火を入れる者が居た。

 

話しかけるのも、少し忙しそう故に断念す。

仕事の邪魔は良くない...

後ろにそぉっと付けてみる事にした。

バレたところで何も無いが....。

その男がロウソクに火を灯しきると、

彼は急か急かと街中に入って行った。

然し乍ら...夜の人混みは厚い、

直ぐに見失ってしまった....。

仕方が無い、尾するのはやめよう...

まるで不審者だ...いや、旅人というものは

元より不審者みたいなモノか。

旅人の少年は少し苦い笑みを浮かべ、

宿へと向かおうとした...。

とその時....闇を掻くように何か影が横切る...。

旅人は吸い寄せられる様にその影を追跡した。


 足音が夜の路地に響く...

すると辿り着くのは行き止まりだった。

ランタンで辺りを照らすが....

気になる要素は微塵も見当たらず。

直後、背後に着地音...。

その音が耳に届く前に恐ろしい反射で回避...

ホルスターから拳銃を抜き出すと、

その影の眉間に銃口を当てる...。

大きめのナイフを持ち、布で顔を隠している。

まるで盗賊のような印象を持つ....。

訪れし小さい硬直の後、先に動いたのは....

その盗賊...ナイフが首元を喰い切る。

...と思われたがナイフが捕らえたのは、

旅人が空に残した黒いコート...。

刹那に旅人は足を引っ掛けると....。

その盗賊を羽交い締めにした。

顔に巻いていた布を剥ぎ取り、

黒暗に隠れた表情をランタンで照らすと...。


.......。


「えーと....。展開早いかもしれません。」

『なるほど...ありがとう。』

「こんなアドバイス...で良いんですか?」

『あぁ大丈夫だ。新作小説ってのは滑り出しが肝心だと思っている。オイルが必要なんだ.....。自分が丹精込めて抽出したオイルでも、それが周りに適した粘度が出なくちゃあね.....。古代異装のエンジンも...オイルはやっぱ必要なんだ....でも扱うには僕らにはまだ手探りさ.....。小説書くにも一緒だ。』

「へぇ....。というかなんで僕なんです?そんなに旅の経験....無いですよ?それと、こんな反射神経無いデスケド...。」

『それが良いんだヨ。あと、君曰く師匠だったかな?より実はヴィジュアルは君の方が僕の考えてた旅のイメージにマッチなんだ....自分を見失った旅人と孤独盗賊少女の冒険譚...!と、あと彼女の方にたっぷり(お金)払ったからまだ居て貰わないとちと困る。』

「むぅ....勝手にどうぞ.......。」

『さて...書き直しか.....。』

「頑張ってくださいマセ。」

逃亡は諦めて、ルアは手伝う事にした。

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