それの国

 国に着いた3日滞在の初日、

まずやることは勿論宿探し。

本当に大切である。

宿はその国での拠点となり

心を休める家となる。

見つけられるとないとではその国の

観光事情が、心持ちが大きく変わる。

小回りの効く小さなボディを

ぶん回しつつ進んで行く。

さて、何とか見つかった。

国の奥の奥の果の果て、

小さな木造の旅館である。

今日の旅はここから.......


「師匠...危なかったですよ。もう正午回って4時間ですよ。」

と、愚痴を零すのは黒髪に

翠多めのターコイズブルーの瞳を持つ少年。

彼の名はルア。

「どこも高いのよ、安くても埋まってるしさ、宿ってのは安く快適にだぞ?」

愚痴に返答するのは銀の髪を流し、

パステルピンクの瞳を持つ女性。

彼女の名はシュネー...

「まぁ...そうですけど...はい、明日の観光ルート...決めますよ。」

「了解了解っと....」

この国は山と山に挟まれ、

山の上から観るとその国土は

巨大なS字になっていると云う。

その山に登るには愛車では少しパワー不足。

歩きでは3日かかるそうだ。

故に、今回は諦める事となった。

「そうよ!カメラをファネに持たせてさ!パシャっと...!」

ファネ...?

「あ、君君、今日からファネね」

師匠はその腕の上に乗った

小さな竜に唐突に名を付けた。

「いきなりすぎません?」

「これいいでしょ」

「いいですけど、カメラは無理じゃないですか。」

捕まえられたらどうしましょう

ファネと名付けられたそのドラゴン

は幾分か首を傾げていたが、

急に飛びあがるとカメラの元へ向かった。

「ほら、やる気じゃん」

ちなみに持ち上がらなかった。

「ほら、難しいです。」

「ぬおっ...」

そうして1日が終わった。

いや、直ぐには終わらなかった。


 時針が11を指した頃...

外も中も暗闇に沈んで

布団の外の気温も冷たく沈んで

睡眠用に心が沈む...

普段なら、そのまま朝になる。

分針が20を指した頃...

何も見えない...

瞼の奥からなんとも言えない...

じわじわとした何かを感じた.....。

ルアは思わず瞼を強く閉じた。

力を入れたせいで、

目が覚めて来た事には気づかなかった。

時針が12を指した頃

外の虫の声に紛れ、何か落ちた音がした。

ルアは気づいたが、

落ちた場所は見当ならぬ、聞当もつかない

師匠の事を考えて動かなかった。

時針が1を指した頃、

隙間風が入ってきた。

ぐっと室温が下がる

ルアは目を閉じたまま

布団を被り直そうとしたが

身体が上手く動かなかった。

時針が2を指した頃

依然、風は吹き込んでいた

寝返りも上手く行かなかった。

そろそろ身体が疲れてきた。

頭がもやっとしてきていた。

分針が30を過ぎた頃

ルアは思い切って目を開けた。

しかし何も無かった。ルアは寝た。

時針が3を指した頃

何も無かった。

時針が4を指した頃

何も無かった。

時針が5を指した頃

誰も動かなかった。

分針が30を過ぎた頃

風が止まった。

誰も気づいていないが。

時針が6を指した頃。

じりりりりりりりりりりりり...

バヂンっ!

「うぐっ...朝か...。少年起きろー寝坊かー珍しいー」

「ふあぁ...なんだか一睡もしてない気分です....。隈がすごいな....。ん...。」

重くて動かない左手を

悟られないように

右手で持ち上げる。

「師匠は昨日の...夜、なんか感じませんでしたか...?」

「え、なんも?」

「物が落ちたような音とか...」

「落ちてないけど...」

「ん〜...まぁいいか....」

街に出ることにした。

その後カメラを付けてみると

赤く照らされた空と

赤く染まったS字の谷が写った

1枚の写真があった。

ぼすっと、少年の頭に

欠伸をしながら小さな竜が不時着した。

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