白蛇さん

 たったったったたたたた....!!

鋼の馬が走っていた。

クリーム色のボディに赤いラインが目を引く。

一人乗りのその運転席に、

余裕を持って収まるほど華奢な黒髪の少女...

「むっ」「どったん?」「いや、なにも」

少年、ルアは遠くを見据える。

背後からした透る声の主は、

銀の髪にパステルピンクの瞳を持ち、

その瞳孔は猫のように細い。

彼女の名はシュネー。

二人は次の国へとゆっくり歩みを進める(この四輪自動車型古代異装に足は無いが)

気候が変わり、雪が飛ぶ。

「雪ですかー。」

「んー?」

「滑り易くなっちゃいますね。スピードは出せませんね」

「ロープで縛る?」

「大丈夫ですかね。」

「やるだけやろうぜ」

路肩に停車させ、

ホイールに空いた穴ひとつひとつに

ぐるりと巻いて行く。

「完成っと」

どるん!たったったたたたたたた!

エンジンをかけて発進。

「でもゆっくり行きますからね。」


 かなり吹雪いて来て雪が積もった山道を、

シュネーの思いとは裏腹に

じっくり、踏み締めるように(四輪自動型古代異装に脚は無いが)、登っていく。

頂上辺りで平坦になって、

「師匠! 村があります。」

「おうし、行くか〜」

木でできた塀に沿って進み、

門らしきものの辺りで停まる。

「すみませーん!! 誰か居ますかー!!」

と、声を出して呼びかけると、

『ありゃりゃ珍しいねぇ...旅人さんかい?』『随分若いじゃないの』

「あのぅ...一晩だけ泊めさせて頂けないでしょうか。」

「え、泊まるの?」

「もう少しで日が沈みます。危ないです。」

「ざんねーん」

「なにがぁ!」

茶番を繰り広げながらシュネーは降りる。

と、その時....。

突如村人の老人達はざわつき出した。

『あれはもしかして....』『間違いないねェ』

白蛇しらへびさんじゃあ無いのかい』『まさか本当に会えるとは...』

『そこのお嬢さん』

「お嬢さんじゃないです」

『僕じゃなくて、銀髪のお嬢さん』

「ン?私?」

『そう、貴女です!いやはや....どうぞお入り下さいませ...』

「あ、あの....車中に入れても良いですか?」

「車....?この微妙な大きさのかい?暴れないようにしてくれれば良いのよ」

「あ、はい」

どうやら古代異装に疎い村のようだ。


 地面を少し掘って、机を設置し、

布団を掛け、更にその上に板を載せる。

内部には熱を発する何か...魔鉱石か?

これが何とも...

「暖たた〜...。」

頬が緩む。

『ありゃまぁ可愛い顔して!』『初めてなんだねぇ』『ほらここら辺で採れる果実だよ、食べなさい』『抱いていいかしら』『あらあらダメよ』

ルアは愛でられまくってしまっていた。

一方シュネーはと言うと...

『まさか本当に、来て下さるとは...』『有難いねぇ...』『これでワシらの畑は大豊作で決まりじゃよ!』『抱いていいかしら』『あらあら何でよ』

シュネーは崇拝されまくっていた。

ルアの方をちらっと見ると...

あぁ、ダメだ...おばあちゃん達に

フニャフニャにされてやがる...。

だけどまぁ分かる...。

私だって心地良いもーん....!

『そうだ...!白蛇さんや...ちと来てくれんかねぇ...』

「あっ...ハイ」

恐るべき部屋から退出した。

そのおばあちゃんと二人になって、

『白蛇さん...じゃないのは...わかっているつもりだよ...?』

「...ほう....,..じゃあ聞きます」


「ふにゃ〜」

きゃあ〜!黄色い歓声。

ふにゃふにゃふにゃふにゃ.....ん?

「ハッ!?僕は...」

『あら...どうしましたの?』

うーん....なんだか

師匠に向かって醜態を晒した気がする...

とりあえず気になる事を

意識がある内に聞いておこう...

「聞きますけど...。」


「白蛇さんってなんです?」?」


『白蛇さんって言うのはねぇ...この村に伝わる言い伝えなんだよ...むかしむかしに1人の長老様がおってな......


 ...という話だよ』

要約すると優しい長老が白い蛇を助けたら

村が豊かになった。という話だ。

「有難う、でなぜ私を別室に?」

『白蛇さんは所謂神様のような存在です...つまり...雰囲気が大切なんです....壊さないようにと...あと、子供達に顔を見せてあげてください....言い伝えというもの、文化というものはいずれ廃れ、消えてしまう。この村も子供達が近くの国へ流れて...。お願いです。どうか....。』

「ふむ...いいでしょう....。えーとこの白蛇、責務を果たすまでだ....で何すれば?」

『ふふふ....じゃあ着替えて下さいませ...』


「へぇ...そういう話なんですね。」

『あの白蛇さんから聞いて無いのかね?』

「ししょ....。」

彼らからすれば師匠は神様なのだ...。

人違いとは言え....邪魔はできないか....?

「白蛇さんはお口が硬いのです。」

どやっ

『ほほぉ〜』

納得してくれた様だ。

ガラガラっ!

背後の戸が開き、振り向くと

「し....白蛇様!?」

危ない。

割と乗り気なルアを確認し....

「どうしたんだね....?」

しゃがむとちょうど目と鼻の先に顔

「あ、えと....近いです。」

「ごめん」

「(それとその格好は?)」

「(見て察せ少年!)」

師匠は赤と白の

何だかヒラヒラした服を来ている...

師匠(白蛇さんver)みたいな感じか。

『白蛇さんこっちでございます』

「承知...っと...じゃあ少年、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。」


 連れられたシュネーは言われるまま

別の屋敷に入ると...。

子供達が寄ってきた

人数は少ない。5-6人程か...

片膝立ちで目線を合わせてシュネーは、

「こんばんは」

と挨拶、そして優しく微笑んだ...。


 次の日の朝に。

二人は村を出た。

「なんやかんや良い村でしたね。」

「わたしゃ疲れたよ...。寝る」

「おやすみです。」

たったったったたたたた....

軽快な音を立てながら

晴れた雪山を下って行った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る