崩壊する日:次

 それは、


「龍ねぇ...。」

「どうかしました?」

「いや?」

ぐったりとした龍を、ただ見守るしか無い。

黒髪の少年がルア。

銀髪の女性がシュネー。

彼らは旅人だ。

「少年?いいかよく聞け?早いとここの国を出る、今目の前にしているのは龍だ。龍ってのは秩序を守る存在だ。彼の邪魔をしては行けないんだよ」

「つまり....。」

「暴れる可能性があるって事だ、宿まで戻るぞ」

「はい...!」

賑やかなヒト々を他所に

二人の旅人は宿へ戻る。

『もうおかえりですか?』

「あぁ、そうだ」

『お気をつけて〜』

「あぁ、よし少年、出してくれ」

「了解です...。」

どるん....たったったったった....。

エンジンをかけてゆっくりと進む。

「あ、ダメです。」

「ん?」

「ヒトが多すぎますよ。」

「うーんどうするか...」

城門はヒトが多い上に、

他国やギルドから来たはヒト達で、

出れそうにない。

そもそも、このタイミングで出るのは

この二人だけな為、

恐らく出国の出来ようが無いだろう...

「倒す...か?」

「えっ...。」

「それか、あれが覚醒する前に更に上から下弦結界を張る」

「でも...」

「うん、私たちは結界術なんて分かんないしできない。なので」

「倒す...と。」

「あと一応、別の手段が有るとすれば...」

「なんです?」

「奪う、龍の台車を奪って逃げる。」

「それなら龍を逃がせる上で、みんな助かると...。」

「まぁそういう事...悪者は私たちだけでいいしな」


 一行は国を軽く見渡せる山に登り、

地図と照らし合わせて作戦を練る。

「よし、コレでいいか」

「OKです。」

「さてこの車をどうするかだ。」

「混乱に乗じて、1回外まで乗って行って...隠したら空間移動の2類魔法書で戻って来ます。」

「了解っと...。じゃあ、一時間後に手筈通りで!」

「はい....!」


 そして一時間、

元から暗かった空も

日が沈んで更に暗くなっていく。

作戦開始だ

門と反対で爆発が発生する。

元凶は勿論...

「オラッ!見てらっしゃい、よってらっしゃい!綺麗な花火だよッ!」

黒いポンチョで

全身を包んだシュネーは叫ぶと

どごぉおおおお!!

次々と廃墟が大爆発を起こす。

『どういうことだ!?』『いってみよう!』『私の家燃えてないかしら...?』

ガヤガヤしだし、

少しずつ門方面から人が減っていく。

「今だっ!!」

ルアはその隙に愛車を退避させる。

上手く出国できたがコレで終わりではない。

少し離れて、車を隠す。

小さい車故ゆえ、窃盗防止だ。

そして1枚の破れた紙を取り出すと...。

燃やす。

すると、紫の炎を上げ、

次第に炎は稲妻へと豹変し、

スパークと共に光が包むと、

ルアの姿はそこには無かった。


「んっ...。」

ぱちぃん!と路地が光輝いたと思えば、

1人の少年が飛び出してきた。

ルアは力の限り走る。

布で顔を隠すと、

消音器サプレッサー付きの拳銃を取り出して

台車を引くトレーラーの

ドアの鍵に押し付け、

ぱしゅっ...と鍵を壊す。

そのままトレーラーのドアを開けると...

『お前ッ!何をしている!』

「うっ...」

銃を1発、足元に射ち威嚇。

そしてその男に銃を向けたまま

ゆっくりドアを閉める。

「操作法は昔本で読んだ....!!」

どうぅううるるるるんんっ!!!!

ディーゼルエンジンが唸りをあげる。

がこしゅっ!ブレーキを解除し、

ぐぅんどるるるるるるるる......!

前に進む。

ギャコン!と

接続部が引っ張られる音がする。

ゲートが閉まるが、

お構い無しに、突き飛ばす。

巨大なトレーラーと言えど、

さすがだ。速い物は速い。

ぐぅうううん.....!

あっという間に国からは離れていった。


 城壁の上でそれを見たシュネーは

じっくり見届けると

「行きますか!」

『どこへ行くっていうんだ?』

「おっととと!早いねぇ...」

『かかれっ!』

一斉に城壁駐在警員が襲いかかる。

「よっ」

軽く後ろに飛び退くと、

「じゃあネ〜」

『お前!!』

駐在員は下を覗き込む...

しかしそこには、

みるみるうちに闇へと溶け込んでいく

先程の人影があるだけだった。

『ゴーストかよ....なんなんだ....!?』


 逃げ切ったトレーラーを降りて、

ルアはシュネーを待つ。

びー!と不意に音がして身構えるが...。

「師匠っ!!」

たたたたたたたたったったった...どぅるん!

正体はライトを付けずに走ってきた、

シュネーの運転するルアの愛車だった。

「お待たせーっと...。じゃあ解くか!」

「はい....!」

結界の対処法はシンプルに...

コンコン....。

「よっ!」

殴る。

パァン!

綺麗に砕け散り、漆黒に溶け込む。

師匠は独自的に結界を割れるらしい。

本当に何でもありなんだよなー...。

とルアは独り思う。

「杭抜くぞー」「はーい。」

次に1本1本...杭を抜いて行き、

その後に縄を解く。

「ふぅう....。」「よーしできたッ!」

縛る物が全て無くなった龍は、

鱗の隙間を蒼く光らせ、首を持ち上げる。

そしてルア達を一瞥すると...。

翼を目一杯に広げ、

いつの間にか晴れた宇宙そらへと飛び立った。


 だが、運命は変わらなかった。

龍は恩人の目の届かない範囲まで

進んでから引き返し、

国の上空にて静止した。

翼を三日月の様に広げ、

放出された青い粒子が宇宙を包んだ。

続いて、目を鶏冠が形を変えて覆うと...。

ごうん.....。

国は消え去った。

龍子の持つ行き場の無いエネルギーが、

国を焼き払い、その一瞬で多数のヒトが

プラズマへと姿を変え、

まるで進化したかのように見えたが、

何も残せず消えてなくなる。

超臨界域に達したその龍は、

秩序の調和と言う使命を果たし、

光となって星へ還った。


 ルアにはこれらの事が見え無かったが、

シュネーには引き返すのも

暗黒に広がる真っ黒な蒼い光も、

何もかも全て見えていた。

だが...何も言わないでおいた。

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